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短くわかる民事裁判◆
判決裁判所の構成の違反:適法な弁論更新の欠落
 民事訴訟法第249条第2項は、「裁判官が代わった場合には、当事者は、従前の口頭弁論の結果を陳述しなければならない。」と定めています。これは、民事裁判の口頭主義・直接主義を示すものとされ、理念的には、判決をする裁判官が当事者の主張立証を口頭で直接に当事者から聞く必要があるということです。
 現実には、この弁論の更新は、裁判官が、「裁判所の構成が替わりましたので弁論の更新を行います。双方、従前通りと伺っていいですね。」と発言するだけ(双方の代理人が「はい」と言うか、黙っている)という程度です。率直に言って、これをやったかやらないかで何かが変わるとはとても思えない代物です。

 しかし、この弁論の更新を忘れ、あるいはそれが口頭弁論調書に記載されていなかった場合は、大事になり、絶対的上告理由となるのです。
 最高裁1958年11月4日第三小法廷判決は、裁判官が交代した口頭弁論期日の調書の更新弁論の記載が「被控訴代理人は従前の口頭弁論の結果を陳述し続いて…」とされているが、「従前の口頭弁論の結果を陳述し続いて」の部分は調書完成後おそらくは事件記録が最高裁に送付された頃に立会書記官以外の者によってなされたと認められるとし、「そして弁論の更新がなされたか否かは、民訴一四七条にいわゆる口頭弁論の方式に関するものとして調書によつてのみ証することをうるものと解すべきであるから、本件においては、適法に弁論の更新が行われたものと認めるをえない。そうとすれば、原判決は、法律に従い判決裁判所を構成せざりし者によつてなされたものというべく、論旨は理由があり、原判決はその余の論旨に対する判断をまつまでもなく破棄を免れない。」として原判決を破棄し原裁判所に差し戻しました。
 立会書記官が作成した本来の口頭弁論調書に「従前の口頭弁論の結果を陳述」という記載がなく(それが裁判官が弁論更新をし忘れたのか書記官が書き落としたのかはわかりませんが)そのミスを隠蔽するために後日調書の改ざんが行われたという認定(その頃ですから手書きで筆跡が明らかに違ったのでしょうね)ですから、それはやはり由々しい事態といえるでしょう。

 最高裁1966年11月26日第三小法廷判決は、弁論終結後弁論が再開されその際には左陪席裁判官が交代していたがその期日には当事者双方が出席せず弁論の更新が行われないままで弁論を終結し判決したので「判決の基本たる口頭弁論に関与しない裁判官によつてなされた」として原判決を破棄し原裁判所に差し戻しました。
 最高裁1974年6月27日第一小法廷判決(判例時報773号10ページ〔2〕)も、裁判官3名のうち2名が交代したのに弁論更新手続がなされないまま判決をしたとして原判決を破棄して差し戻しています。
 最高裁1970年3月4日第三小法廷判決(判例時報817号15ページ〔1〕)も、左陪席裁判官が交代した際に弁論の更新が行われずその後そのまま弁論終結して判決がされたとして原判決を破棄して差し戻しています。
 最高裁1986年9月2日第三小法廷判決(判例時報1262号10ページ【10】)も、裁判官1名が交代した際に弁論の更新が行われずその後そのまま弁論終結して判決がされたとして原判決を破棄して差し戻しています。

 また、最高裁2013年7月12日第二小法廷判決(判例時報2224号6〜7ページ【1】)は、原審(控訴審)第1回口頭弁論期日の調書に当事者が第1審における口頭弁論の結果を陳述した旨の記載がないため、(控訴審は第1回口頭弁論期日で弁論終結しており裁判官の交代はありませんが)「原判決はその基本となる口頭弁論に関与しない裁判官によってなされたものであるから、原判決には民訴法312条2項1号に掲げる事由もある」として原判決を破棄して原裁判所に差し戻しました。

 他方で、最高裁は、従前担当した裁判官が裁判官交代の際に弁論の更新をしなかった場合でも、最終の口頭弁論において担当した裁判官が交代時に弁論の更新をしていれば、それ以前の弁論の更新を行わなかった瑕疵は治癒されることを繰り返し判示しています(最高裁1962年4月20日第二小法廷判決最高裁1966年2月24日第一小法廷判決最高裁1976年6月29日第三小法廷判決)。交代のときに弁論の更新を忘れた裁判官がその後の期日に、前回忘れていたから今回更新しますと言った場合に治癒されるかはわかりませんが、最終の口頭弁論のときに裁判官が交代してそのときに弁論の更新をすれば、それ以前の瑕疵は治癒される(最高裁1966年2月24日第一小法廷判決はそういうことになる)のなら、それほどこだわることかなと思います。

 上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「最高裁への上告(民事裁判)」もばいる「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。

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