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短くわかる民事裁判◆
代理権の欠如:破産手続中の判決
 民事訴訟法第312条第2項第4号の絶対的上告理由「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」の解釈として、訴訟手続の中断中に審理・判決がなされた場合もこの絶対的上告理由に当たるものとされています。その訴訟手続の中断の典型例が、破産です。

 最高裁1983年5月27日第二小法廷判決は、「原審は、控訴人であつた朝野建設株式会社が破産宣告を受け訴訟手続が中断中であつたにもかかわらず、同会社を当事者として本件の審理及び判決をしたものであることが明らかである。右事実によれば、同会社は法律上訴訟行為をすることができない状態において審理及び判決を受けたものであつて、この場合は当事者が代理人によつて適法に代理されなかつた場合と同視することができるから、民訴法395条1項4号の規定の趣旨に則り、原判決は破棄を免れないものといわざるをえない」としています(引用されている条項は現行民事訴訟法制定前の旧民事訴訟法のものです)。

 建物賃貸人の債権者が和解調書に基づいて賃料債権を差し押さえ、1997年3月7日に賃借人に対して取立訴訟を提起した後、同年5月27日に賃貸人が破産し、同年6月12日賃貸人の債権者勝訴の第1審判決があって賃借人が控訴し、破産管財人がいったんは受継の申立をしたが破産裁判所の許可を得て賃料債権を財団放棄(破産手続から除外扱い)して受継申立てを取り下げたが、原審は、破産手続き中は破産管財人が財団放棄した自由財産についても個別強制執行は許されない(破産法第42条)として第1審判決を取り消して賃貸人の債権者(原告、被控訴人、上告人)の訴えを却下する判決をしたという事件で、最高裁1999年12月17日第二小法廷判決(判例時報1707号62〜63ページ【2】)は、「破産の宣告により破産財団に属する権利の管理処分権は破産管財人に専属し、破産債権は破産手続によってのみこれを行使しうることになるのであるから、差押債権者が第三債務者に対し取立訴訟を提起した後に債務者に対して破産の宣告がされた場合には、破産法の規定による受継があるか、又は破産手続の解止があるまで、訴訟手続は中断すると解されるところ、破産管財人が右訴訟手続を受継した後に被差押債権を破産財団から放棄したときには、破産管財人は非破産債権の管理処分権を喪失するから、右訴訟手続は、破産手続の解止があるまで中断することになる。」、「本件訴訟手続は、(賃貸人会社)に対する破産手続の解止があるまで再び中断したものであるにもかかわらず、原審は、その後に開かれた口頭弁論期日において上告人を当事者として本件の審理及び判決をしたものであることが明らかである。右事実によれば、上告人は法律上訴訟行為をすることができない状態において審理及び判決を受けたものであって、この場合は当事者が代理人によって適法に代理されなかった場合と同視することができるから、原判決には民訴法312条2項4号の規定の趣旨に反する違法があるといわなければならない」として、原判決を破棄して原裁判所に差し戻しました。
 少しややこしい事案ですが、債権者(原告、上告人)が賃借人に提起した訴訟が賃貸人に対する強制執行を前提とする取立訴訟なので、裁判当事者でない賃貸人に強制執行をしているという関係があり、賃貸人の破産で破産手続き中の強制執行が禁止・取り消されるという効果が生じ、さらに言えば破産管財人が対象となる賃料債権を財団放棄したために破産者との関係で手続外のものになって、それは破産手続終了(ここでは「解止」という言葉が使われていますが通常用語でいえば破産手続終結)後に破産者と決着する扱いになるので、いずれにせよ法的には破産手続が終了してから処理することになるものです(破産管財人が訴訟手続の受継をすれば訴訟を進めその中で決着できますが)。

 なお、破産手続開始後に控訴審の判決(相手方の控訴を棄却する破産者勝訴の判決)をしたが上告審判決前に破産手続が終結したときについて、最高裁2013年7月18日第一小法廷判決は、「被上告人の破産手続は既に終結しているのであって、上告人が経るべき破産法所定の手続はもはや存在しない。そして、記録によれば、本件続行命令がされてから上記破産手続の終結までにBが当事者として関与した訴訟手続は、上告人の控訴を棄却する旨の原判決の送達を受けたことなどにとどまる。したがって、上記破産手続の終結により、原審の上記違法の瑕疵は治癒されたものと解するのが相当である。」としています。
 この事案も、破産者が過払い金請求で勝訴して仮執行し、貸金業者が控訴とともに控訴審で勝訴したときには仮執行分の返還命令(民事訴訟法第260条第2項)をするよう求めていて、その2つを切り離して破産管財人が受継できるか(できない)という問題、原判決は控訴棄却で破産者全部勝訴なのに、最高裁は過払い金の点では減額して差し戻し(仮執行分の返還命令の問題は残る)というややこしさがありますが、破産手続中に判決があっても訴訟手続の中断中の行為は破産前に事実上決まっていた判決(原審口頭弁論終結後の破産ですし)の言い渡しと破産管財人の受領だけで影響があることもしていないのだから、破産手続が終結したら瑕疵は治癒される(問題はなかったことにする)という趣旨と読めます。

 上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「最高裁への上告(民事裁判)」もばいる「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。

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