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短くわかる民事裁判◆
代理権の欠如:法人代表者
 民事訴訟法第312条第2項第4号の絶対的上告理由「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」の典型例の1つが、法人が当事者(原告・被告)の場合に代表者でないものが代表者として訴訟行為(訴訟代理人=弁護士への委任も含む)をしたときです。

 最高裁2008年9月12日第二小法廷判決(判例時報2043号8ページ【1】)は、寺院である原告(被上告人)で、2002年9月9日に代表役員に就任したBに対して2004年6月10日開催の臨時責任役員会で解任決議がなされ、Bはその決議の無効確認と代表者の地位確認請求訴訟を提起し、その訴訟でAが2004年11月16日に代表役員に就任したと主張していたが、その訴訟で2007年6月29日にBの請求を認める控訴審判決が言い渡されて2008年4月18日に確定したという経過(代表役員の地位をめぐる争い)がある中で、Aを代表者として2005年2月17日に提訴した事件について、「被上告人の代表役員はAではなくBであったから、本件訴訟は被上告人について訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者によって追行されてきたことになる。」、「したがって、論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は、民訴法312条2項4号に該当するものとして、破棄を免れない。」とした上で、被上告人が別訴の控訴審判決後に改めてAを適式に代表役員に選任し、Aがこれまでの訴訟行為を追認したと主張し、上告人がこれを争うので、「本件選任の事実の有無等、被上告人の上記主張の当否についてさらに審理を尽くさせるため」原判決を破棄し原裁判所に差し戻しました。
 代理権の欠如は、本来的には代理人が訴訟行為をした側の当事者を保護する規定ですが、相手方の主張により破棄していることが注目されます。
 代理権の欠如の場合は、本人が(適法に)追認すれば上告理由にならない(民事訴訟法第312条第2項柱書但し書き)ので、自己に有利な(勝訴)部分を破棄されてはたまらないと、追認の主張をしていますが、それについては最高裁では認定できないので差し戻しということになっているものです。
※最高裁はこの判決でも、「訴訟行為をするのに必要な授権の有無は職権探知事項であり、本件において原判決を破棄するについては、必ずしも口頭弁論を経ることを要しないと解するのが相当である。」としています。最高裁はその根拠として最高裁2007年3月27日第三小法廷判決を挙げていて、その判決では民事訴訟法第319条及び第140条を根拠としているのですが、それらの条項はいずれも上告を棄却か却下する場合で、原判決を破棄する場合にそれを言うのは、私は疑問に思います。

 最高裁2016年9月9日第二小法廷判決(判例時報2342号10ページ【3】)も、株式会社の代表取締役の地位をめぐって争いがある中で争いに負けた者が会社(原告、控訴人、被上告人)の代表者として提起追行した訴訟について、「被上告人について訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者によって控訴の提起や原審における訴訟の追行がされたこととなる」、「民訴法312条2項4号に該当するものとして、原判決は破棄を免れない」、「控訴の提起を追認するか否かにつき被上告人に確認するなど、原審の審理をやり直させるために、本件を原審に差し戻すことにする。」としています。

 上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「最高裁への上告(民事裁判)」もばいる「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。

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