◆短くわかる民事裁判◆
絶対的上告理由:口頭弁論の公開の規定違反
民事訴訟法第312条第2項第5号は「口頭弁論の公開の規定に違反したこと」を絶対的上告理由としています。
実際にこれによって原判決が破棄されたケースとして最高裁2013年7月12日第二小法廷判決(判例時報2224号6〜7ページ【1】)があります。この事案では、第1審の第2回口頭弁論期日と第3回口頭弁論期日の口頭弁論調書の「場所等」の欄に「静岡地方裁判所民事第1部準備手続室」と記載されているのみで、口頭弁論を公開した旨の記載がないから、「第1審が第2回口頭弁論期日及び第3回口頭弁論期日の各口頭弁論を公開したものと認めることはできないのに、原審は、これを看過して判決を言い渡したものであるから、原判決には民訴法312条2項5号に掲げる事由があるといわざるを得ない。」として原判決を破棄して原裁判所に差し戻しました。
民事訴訟法上、弁論準備手続の期日であれば公開を要しません(弁論準備手続は「裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる」とされています:民事訴訟法第169条第2項)。今どきの実務では、通常の民事訴訟の多くは、ずっと弁論準備手続期日(多くの場合Web会議)で進めて、人証調べになって口頭弁論期日を開くというパターンです。その場合でも、弁論準備手続の結果を口頭弁論期日に陳述することになっている(民事訴訟法第173条)ので、それでいいということになっています(例によって、それは単に裁判官が、「双方弁論準備手続の結果を陳述」と述べて口頭弁論調書にそう記載されるだけですが)。
実務の運用からすると、この最高裁2013年7月12日第二小法廷判決の事案についても、第1審裁判所が口頭弁論ではなく弁論準備手続期日として行えば問題なかった(法廷ではなく準備手続室でやっているのですから、当事者もそう考えていたんじゃないでしょうか)わけです。また、法廷以外の準備手続室でやっていても「準備手続室で公開」と記載すれば問題にされなかったはずです。法廷ではなくて準備手続室でやっているのを誰かが傍聴に来る可能性はほぼ皆無ですが、「準備手続室で公開」という記載の調書はよく見ます(私自身は、そういうのを見ると違和感を持ちますが)。率直に言えば、たぶん、書記官が「準備手続室で公開」と書き忘れただけなんだろうと思います。それで公開原則違反というのもちょっと大仰な印象を持ちます。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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