◆短くわかる民事裁判◆
絶対的上告理由:理由不備
民事訴訟法第312条第2項第6号は絶対的上告理由として、「判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。」を定めています。この前半の「判決に理由を付せず」が「理由不備(りゆうふび)」、後半の判決の「理由に食違いがあること」が「理由齟齬(りゆうそご)」です。
この理由不備について、最高裁1999年6月29日第三小法廷判決は、「いわゆる上告理由としての理由不備とは、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けていることをいうものである」として、被上告人(被告)の反論主張(抗弁:こうべん)に対する上告人(原告)の再反論の主張(再抗弁:さいこうべん)を原判決が当事者の主張としても書き落とし、(当然の結果として)それについての判断もしていないことは、「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断を遺脱した違法」ではあるが、その重要な事項を上告人(原告)が主張したということが原判決に表れていないので「原判決自体はその理由において論理的に完結しており、主文を導き出すための理由の全部又は一部が欠けているとはいえないから」上告理由としての理由不備に当たるものではないと判示しました。
原判決が上告人の再反論を当事者の主張として書いていれば、それが否定されないと判決主文の結論(上告人敗訴)を導けないのでその再反論について判断を示していないことは理由不備になるが、当事者(上告人)が主張したことも書き落としていればその再反論が主張されたことが判決上表れていないのでそれを判断せずに上告人敗訴の結論を導いても判決の論理としては不自然なところはなく完結しているので理由不備にならないということです。当事者(上告人)からすれば、主張したのに裁判所がそれについて判断しなかったという点で同じことですし、さらに言えば主張したのに当事者の主張にさえ書かれていない方が罪が重いとも言えますが、「理由不備」の定義・概念からはそうだということです。最高裁としては、この判決でもそうしているように、絶対的上告理由である「理由不備」には当たらないが、「原判決には、判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断を遺脱した違法がある」ので「右判断の遺脱によって、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある」として職権破棄(民事訴訟法第325条第2項)するから不当に敗訴した者の救済としては問題ないだろうという考えなのでしょう。
この最高裁判決について、民事訴訟法改正(1996年改正、1998年1月1日施行)を機に、旧民事訴訟法の下での最高裁判決で理由不備と判示されたものの中には本来の上告理由としての理由不備と、そうではない理由不備があり、新法においては上告理由が整理されたことにより一層その識別の重要性が増した、この判決は新法下の上告制度の厳密な解釈、運用の姿勢を明らかにしたものであるというような解説が、最高裁調査官によってなされています(判例時報1707号61~62ページ等)。
実際、以前の(昔の)最高裁判決では、経験則違反の違法があるとされる場合に併せて理由不備と判示されるケースがわりとあったのに、この判決の後、そのような判示はほとんど見られないようになっています。
現在は、上告理由としての理由不備に当たるとされるのは、かなり難しくなっていると考えておくべきでしょう。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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