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短くわかる民事裁判◆
代理権の欠如:集団訴訟の訴訟代理人
 民事訴訟法第312条第2項第4号の絶対的上告理由「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」の典型例の1つが、訴訟代理権つまり弁護士への委任について本人が委任したものではないというものです。
 弁護士の側では、依頼を受けずに訴訟行為をするということは通常は考えられず、間に誰かが介在して本人(法人の場合代表者)の資格や意思能力、意向を直接に確認しないまま、本人が依頼していると考えたというケースかと思われます。特に集団訴訟、とりわけ運動絡みの訴訟の場合、原告の人数が多いし、個別事情はあまり問題にならないこともあり、訴訟委任状は運動体の人が取りまとめて持って来て、弁護士がいちいち本人の意思確認までしないのがふつうです。

 最高裁2009年3月13日第二小法廷判決(判例時報2082号8〜9ページ【2】)では、神戸市が教職員共済会に交付金を支出したことに関する住民訴訟で、第1審、第2審とも住民勝訴で神戸市が上告したものですが、原告のうち1名について訴訟代理人の代理権が問題とされました。この判決は、「記録中にある同被上告人の本件訴訟代理人に対する訴訟委任状は同被上告人の意思に基づいて作成されたと認めるに足りず、また、他に同被上告人が本件訴訟代理人に対して訴訟代理権を授与したことを認めるに足りる証拠もない。そこで、当裁判所は、平成20年12月17日、本件訴訟代理人に対し、14日間の期間を定めてその訴訟代理権の不備を補正するよう命ずる決定をし、その謄本は同月18日本件訴訟代理人に送達された。しかし平成21年1月5日を経過してもその補正はない。よって、同被上告人の本件訴えは、訴訟代理権を欠く代理人によって提起された不適法な訴えであるから、原判決中同被上告人に関する部分を破棄し、第1審判決中同部分を取り消した上、これを却下することにする。」としました。
 訴訟委任状の作成経過、最高裁係属時点での原告本人の所在・状態等は不明ですが(集団訴訟ですし、弁護士の立場から推測すると、もともと運動体の人が委任状を取りまとめている上、提訴から年月が経過しているため連絡が付かないんでしょうね)、新たな訴訟委任状が出せないということだとしかたないでしょうね。
 この事件でも、本来、代理権の欠如は、代理権がない者に代理された者を保護するためのものなのに、代理権に問題があるとされた側ではなく、その相手方に有利に原判決が破棄されていることが注目されます。

 上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「最高裁への上告(民事裁判)」もばいる「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。

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