◆短くわかる民事裁判◆
代理権の欠如:訴状が送達されていない場合
民事訴訟法第312条第2項第4号の絶対的上告理由「法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。」の解釈として、「有効に訴状の送達がされず、その故に被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合には、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はない」(再審に関して最高裁1992年9月10日第一小法廷判決)とされています。
実態のないファンドへの出資等を勧誘され金銭を交付したとして勧誘した会社と代表取締役社長の他に取締役、監査役等に対する損害賠償請求訴訟が提起され、取締役、監査役等(上告人ら)への訴状等はすべて会社を就業場所として代表取締役に交付してなされた(補充送達:民事訴訟法第106条第2項)という事案で、最高裁2016年9月1日第一小法廷判決(判例時報2342号11〜12ページ【4】)は、「上告人らについては、当時、同社の取締役又は監査役に就任した旨の登記がされていたものの、その後、上告人らがこれらの地位にないことを確認する旨の判決の確定により、同登記は抹消されており、他に歯科医師として稼働していた上告人らが上記事務所において現実に業務に就いていたことを認めるに足りる資料はない。したがって、上記事務所は上告人らの就業場所には当たらず、上記送達はその効力を生じないものというべきである」、「記録によれば、上告人らは、原判決が言い渡された後、本件訴訟の存在及びその経過を初めて知ったことから、上記送達はその効力を生じないことを理由に原判決の破棄を求めていることが認められる。以上によれば、上告人らについては、訴状の有効な送達がないため、本件訴訟に関与する機会が与えられないまま原判決がされたといえるから、民訴法312条2項4号に規定する事由があるというべきである」、「論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして、同部分については、改めて訴状を上告人らに送達した上で、第1審の審理をやり直させるために、第1審の判決を取り消し、本件を第1審に差し戻すこととする」としました。
この事件では、会社の訴訟代理人が代表取締役から上告人らの訴訟委任状の交付を受けて訴訟活動をしていましたが「記録によれば、記録中に編綴されている上告人らの同弁護士に対する訴訟委任状は、(代表取締役)が同弁護士に交付したものであることが認められ、それが上告人らの意思に基づいて作成されたものであることを認めるに足りない」として、会社の訴訟代理人による訴訟活動によって送達の瑕疵が治癒されたということもできないとしています。
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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