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短くわかる民事裁判◆
最高裁に対する1審訴訟提起:どの下級裁判所も裁判権を有しないとして却下された例
 原告が、管轄(かんかつ)のない裁判所に訴えを提起(訴状を提出)した場合、訴え提起を受けた裁判所は、申立てによりまたは職権で(つまり被告の申立がなくても裁判所の判断でということ)訴訟を管轄裁判所に移送(いそう)することとされています(民事訴訟法第16条第1項)。管轄を間違った訴えは、不適法な訴えではありますが、この場合は訴状や訴えを却下するのではなく、管轄のある裁判所に移送することになっているのです。言い換えれば、裁判所は、管轄がないことを理由に訴状却下や訴えの却下をすることはできません。
 そのことは、第1審としての裁判権を有しない最高裁に第1審として訴訟提起した場合(当然、最高裁には管轄がありません)でも、本来的には同じです。

 最高裁は、原告が、警察予備隊の設置及び維持に関する一切の行為が無効であることの確認を求めて最高裁に提訴した事件で、「わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。そして弁論の趣旨よりすれば、原告の請求は右に述べたような具体的な法律関係についての紛争に関するものでないことは明白である。従つて本訴訟は不適法であつて、かかる訴訟については最高裁判所のみならず如何なる下級裁判所も裁判権を有しない。この故に本訴訟はこれを下級裁判所に移送すべきものでもない。」として、訴えを却下しました(最高裁1952年10月8日大法廷判決)。
 同様に、日本国憲法の無効確認を求める訴訟についても、「裁判所の有する司法権は、憲法七六条の規定によるものであるから、裁判所は、右規定を含む憲法全体の効力について裁判する権限を有しない。」として、訴えを却下しています(最高裁1980年5月6日第三小法廷判決)。
 これらの判決は、民事訴訟法上は管轄を有する裁判所に移送すべきではあるが、移送先となるべき、管轄を有する(下級)裁判所が存在しないことから、移送すべきものでもないとしているものと考えられます。

 これに対し、管轄を有する下級裁判所があるが、移送を要しないとされた例を「最高裁に対する1審訴訟提起:訴訟上の信義則に反するとして却下された例」で紹介しています。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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