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短くわかる民事裁判◆
土地管轄:債務不履行による損害賠償請求
 契約上の義務(債務:さいむ)を履行(りこう:実行すること)しなかったとして損害賠償請求をするとき、土地管轄の1つの「義務履行地」(民事訴訟法第5条第1号)はどのように考えるべきでしょうか。損害賠償請求権は、本来の契約上の義務の履行を請求する権利が転化(てんか:変わったということ)したものだから、その義務の履行地は本来の契約上の義務の履行地だという考え方と、損害賠償請求権は本来の義務の履行請求権とは別の請求権だから原則として権利者(原告)の住所地だという考え方があります。かつては、裁判所は前者の考え方を取っていたことがありますが、現在では後者の考え方が取られています。

 イメージしやすいように私が経験した具体例を挙げますと、東京で店舗を持って店舗内でサービス(役務:えきむ)を行っていた個人事業者がいました。そこに遠方から通ってそのサービスを受けていた利用者がいたのですが、その利用者が迷惑行為を繰り返すのでその個人事業者がその利用者を出入り禁止にしました。すると、その利用者がサービスの提供を拒否されたのは債務不履行だとして、利用者の住所地(東京から遠方の地)の地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起しました。
 訴えられた個人事業者からすれば、東京の1店舗だけで営業していて、サービスは店舗内で行うことが前提で、実際そうしていたのですし、遠方の顧客を勧誘(セールス)したものでもなく、評判を伝え聞いて利用者が好き好んで遠方から通っていたものですから、遠方で裁判を起こされるのは予想もしていませんし、起こされた側からすればまったく理不尽なものです。
 事業者対個人顧客とはいえ、その利用者は自ら好んで頻繁に東京まで通ってサービスを受けていたのですし、裁判のために東京に来ることもその利用者にとっては大きな負担とはいえず、裁判を起こす側としてその覚悟を求めることが不当とはいえないでしょう。
 そういった事情から、サービスを提供する契約(契約書も交わしていませんが)の義務履行地は明らかに店舗所在地の東京であり、債務不履行による損害賠償請求権は契約上の義務が転化したものだから義務履行地は東京である、本訴の土地管轄は東京か被告住所地(都内ではありませんでしたが隣県)のみだとして、移送を求めましたが、債務不履行による損害賠償請求権は契約上の義務の履行請求権とは別のものだから原告住所地にも土地管轄があるとして移送を却下されてしまいました。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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