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短くわかる民事裁判◆
土地管轄:本庁と支部
 地方裁判所、家庭裁判所と高等裁判所には、本庁と支部があります。日本全国のそれぞれの地域ごとに、その地域を管轄する裁判所が定められていて(裁判所のサイトでの説明はこちらとそこからのリンク先を見てください)、そこには対応する支部の記載があります。
 例えば、埼玉県川越市は、簡易裁判所は川越簡易裁判所、地方裁判所・家庭裁判所はさいたま地方・家庭裁判所川越支部と記載されています。この場合、土地管轄の基準となる地が川越市内の地方裁判所の事件は、さいたま地方裁判所川越支部に訴えを提起しなければならないでしょうか。さいたま地裁本庁に訴え提起してはいけないのでしょうか。
 実は、民事訴訟法上の土地管轄はこの場合さいたま地裁にあり、管轄としては本庁・支部の区別はありません。裁判所の管轄区域の一覧は、よく見ると、川越市については、本庁としてはさいたま地裁本庁、支部としてはさいたま地裁川越支部に管轄があることが記載されています。本庁と支部の区域割、あるいは支部間の区域割は、法律上の管轄の問題ではなく、裁判所内部の事務分配の問題なのです。
 したがって、川越市内に土地管轄の基準となる地がある事件(被告の住所が川越市内、義務履行地=原告の住所や勤務場所が川越市内など)をさいたま地裁本庁に提訴しても、さいたま地裁本庁に管轄はあり、不適法な訴えではありません。その場合、裁判所は管轄違いとして移送することはできません。しかし、実務上、裁判所は裁判所内の事務分配に従い、川越支部に事件を回付(かいふ)することはできます。そして、回付は裁判所の判断で行い、当事者に回付を求める権利はなく、回付された場合には不服申立てもできません(最高裁1969年3月25日第三小法廷決定)。

 私の経験上は、労働事件で原告住所も就労場所も被告住所も川越支部管内の事件で2度さいたま地裁本庁に提訴し、同様に原告住所も就労場所も被告住所も千葉地裁八日市場支部管内の事件で2度千葉地裁本庁に提訴したことがあります。いずれも、労働事件であり、本庁には労働集中部があるので本庁での審理を希望するという上申書を出して無事本庁で審理されました。3件は被告からも異論は出ず(被告代理人も地元の弁護士じゃないので本庁の方が便利ですし)、1件は(東京の弁護士なのに)川越支部に回付を求めてきましたが、裁判官は採用しないといってそのまま本庁で審理されました。
 支部管内の事件を本庁に提訴した場合に回付するかしないかは担当裁判官の判断で、その裁判官の感覚にもよるようです。人によっては支部管内の事件はガンガン回付するということを、聞いたこともあります。私の経験したケースはいずれも労働事件で本庁に労働集中部がある裁判所だったので回付を避けられたということかも知れません。
 私の経験でも、強制執行は、支部管内の事件を本庁に申し立てると支部に申し立ててくれと言われて突っ返されます。回付されたら不服申立てができませんし、裁判所間の事件送付は時間がかかり、本裁判と違って強制執行はそこで無駄に時間を食うと差押えができなかったり空振りする危険が高まります。そうすると提出した書類一式を送り返してもらって支部に出し直すのが最善となり、裁判所もそう言いますので、そうします。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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