◆短くわかる民事裁判◆
附帯控訴理由書
附帯控訴については、控訴に関する規定による(民事訴訟法第293条第3項本文)、附帯控訴については、控訴に関する規定を準用する(民事訴訟規則第178条)。
そうすると、控訴理由書についての民事訴訟規則第182条も附帯控訴理由書に準用されて、「附帯控訴状に第一審判決の取消し又は変更を求める事由の具体的な記載がないときは、附帯控訴人は、附帯控訴の提起後50日以内に、これらを記載した書面を控訴裁判所に提出しなければならない。」となると解するのが、法令の読み方としては自然です。
民事訴訟法や民事訴訟規則で、申立書と別に理由書について提出期限が定められているもの(控訴状と控訴理由書、上告状と上告理由書、上告受理申立書と上告受理申立て理由書、特別上告状と特別上告理由書、即時抗告状と即時抗告理由書、再抗告状と再抗告申立て理由書、抗告許可申立書と抗告許可申立て理由書、特別抗告状と特別抗告理由書)はすべて、申立書の提出期限が比較的短く定められていて(5日間〜2週間)、まず短期間に申立をしてしまう必要があり、そのために理由書の提出期間を別に与えていると解されます。
他方、附帯控訴は、控訴審の口頭弁論終結までいつでも申し立てることができ、かなりゆっくり検討準備して申し立てることができます。ある意味で、申立期限がなくそれと別に理由書の提出期限というものが予定されていない「訴状」と似ているように思えます。
このように、申立てを急かされず申立て時点までにゆっくり準備できる附帯控訴に、附帯控訴状提出から50日間もの提出期限を与えることに合理性があるでしょうか。
そして、特に近年の高裁の控訴審では、裁判所は基本的に1回結審を志向していて、期日の続行には消極的姿勢が強くみられます。
そのような状況の下で、第1回口頭弁論期日近くに附帯控訴状を提出した上、附帯控訴理由書提出まで50日欲しいといったら、裁判所は待ってくれるでしょうか。
私は、附帯控訴の経験はあまりないですが、附帯控訴したときは、附帯控訴状に附帯控訴の理由も書いてしまいますし、附帯控訴されたときの経験でも附帯控訴状に附帯控訴の理由が記載されていました。
ですから、附帯控訴状と別に附帯控訴理由書を提出する、そのために期間を要するということについて、高裁がどう対応するのか見たことがありません。
1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版20ページでは、「規則178条は、附帯控訴について、控訴に関する規定を準用している。」、「これにより、規則のうち173条(控訴権の放棄)、175条(攻撃防御方法を記載した控訴状)、176条(控訴状却下命令に対する即時抗告)、177条(控訴の取下げ)、182条(第一審判決の取消事由等を記載した書面)、183条(反論書)など控訴に関して実質的な内容を持つ規定が附帯控訴に準用されることになる。」として、民事訴訟規則第182条の準用を明示しています。
東京高裁在職中の岡口基一元判事が執筆した「民事訴訟マニュアル第2版」(2015年)でも、「附帯控訴理由書の提出期限:附帯控訴提起から50日以内(民訴規178・182)」(下巻93ページ)、「エ 附帯控訴理由書の提出等 (1)附帯控訴状に附帯控訴理由の記載がないときは、附帯控訴の提起後50日以内に、附帯控訴理由書を控訴裁判所に提出しなければならない(民訴規178・182)。 もっとも、50日を経過したからといって附帯控訴が不適法とされるわけではない(中野ほか・新民訴講義602頁参照)」(下巻96ページ)と記載されています。
裁判官が執筆したものがそう書いているのだから、50日要求したら高裁は応じると考えるべきでしょうか。
気の小さい私には、そんなことはとても要求できません。だれか実例を教えてくれるとありがたいのですが。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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