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短くわかる民事裁判◆
控訴審での書証の提出:時機に後れたものとして1審で却下された書証
 控訴審でも新たな証拠を提出することは、民事訴訟法上予定されていますし、ごくふつうに行われています。

 第1審で、時機に後れた攻撃防御方法(じきにおくれたこうげきぼうぎょほうほう)として却下された書証を、控訴審で再度提出することは許されるでしょうか。
 民事訴訟法の解説書では、時機に後れた攻撃防御方法の却下について「もちろん、審級を超えて効力が維持されるものでないから、第1審で却下されても、控訴審で同じ攻撃防御方法の提出ができないわけではない。しかし第1審および控訴審を通じて、時機に後れた攻撃防御方法であるかどうかが判断されるので、事実上、控訴審でも却下されることが多いと思われる。」などとするものがあります(新・コンメンタール民事訴訟法[第2版]707ページ、日本評論社、2013年)。

 理論からいうとそうなるのかもしれませんが、控訴審で初めて提出する書証が通常特に問題にされないのに、第1審で既に提出した書証が控訴審で時機に後れたとして提出できないというのはなんだか変な気がします。
 時機に後れた攻撃防御方法の却下というのは、私自身はされた経験がありませんし、実際に却下される例は少ないものです。現実に却下されるケースは、弁論終結が予定されている時期にその直前に提出した場合が多いと思います。弁論終結時であっても、相手方がそれが出るなら反論・反証をする必要があるといわなければ、却下されずに提出扱いして弁論終結するのがふつうです。そういう意味で、現実には「時機に後れた」かよりも、「訴訟の完結を遅延させる」かの方が重視されます。
 すると、第1審で時機に後れたものとして却下された書証等は、弁論終結時で、それを認めたら予定通り弁論終結できなくなるから却下されたもので、控訴審では、再提出されても、控訴審が第1回口頭弁論期日に弁論終結できる前提なら、全然訴訟の完結を遅延させないので、却下する必要も理由もなく、さらに言えば却下する要件に該当しないものだと思います。相手方の方も、反論・反証したいのなら第1審の判決から数えても、控訴審の第1回口頭弁論期日までふつう3か月くらいはあるのですから、反論・反証の準備は十分にできているはずです。
 私自身、それほど経験があるわけではありませんが、控訴審から受任した事件で、第1審で却下された書証について、再提出して裁判所から何かいわれたことはありません。
 むしろ、裁判所の方から、第1審で却下された書証を出すのなら、(第1審で提出して却下された書証は、訴訟記録に、「却下」と書き込んだり付箋をつけたりして綴じられているのですが)改めて新たな書証番号を振った上で正本・副本を提出してくれといってきます(出すなということではなく、出すことを想定して対応してきます)。第1審においてした訴訟行為は、控訴審においてもその効力を有する(民事訴訟法第298条第1項)ので、再提出しなくてもいいはずと抗ってみてもいいのですが、まぁ面倒を起こす必要もないので、素直に新たな書証番号をつけて再提出しましたが。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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