◆短くわかる民事裁判◆
裁判所職員の誤指示による控訴状の撤回
民事裁判の当事者が死亡すると、訴訟手続は中断し、その死亡した当事者の相続人が訴訟手続を受け継がなければなりません(民事訴訟法第124条第1項第1号)。相続人は相続放棄ができる間は訴訟手続を受け継ぐことができません(民事訴訟法第124条第3項)。訴訟手続の受継の申立てがあったときは裁判所はそれに対して裁判をしなければならず、受継を認めるときは、通常は黙示の決定でも足りると解されていますが、判決書の送達後に訴訟手続が中断した(当事者が死亡した)場合は、判決をした裁判所がその申立てに対する裁判をしなければならず(民事訴訟法第128条第2項)この場合は明示の裁判をしなければならないと解されています。訴訟手続の中断があったときは、期間は進行を停止し、訴訟手続の受継を認める裁判が告知されたときから新たに全期間の進行を始めるとされています(民事訴訟法第132条第2項)。
その結果、判決送達後に当事者が死亡した場合は、控訴期間は進行せず、相続人が受継の申立てをし、判決をした裁判所が受継を認める裁判(決定)を相続人(受継申立人)に告知した日から改めて控訴期間(2週間)が進行することになります。なお、相続人が受継の申立てをしない場合、裁判の相手方が受継の申立て(相続人が受継すべきという申立て)をすることもでき(民事訴訟法第126条)、裁判所が職権で相続人に対して訴訟手続の続行を命じることもできます(民事訴訟法第129条)。
当事者に訴訟代理人がいないとき(本人訴訟の場合)は、以上のようになるのですが、訴訟手続の中断の規定は、訴訟代理人がある間は適用されません(民事訴訟法第124条第2項)。したがって、判決送達後に当事者が死亡しても、訴訟代理人がついている場合は訴訟手続は中断せず、代理人は一般に用いられている訴訟委任状では「控訴」が委任事項となっていますので、控訴をすることができ、控訴期間も通常通りに進行します。ただし、控訴は民事訴訟法上、特別の委任を受けなければならない(民事訴訟法第55条第2項第3号)ので、訴訟委任状の委任事項に「控訴」が含まれていない場合は、訴訟代理人は改めて当事者から委任を受けないと(委任状をもらわないと)控訴ができず、その場合は、訴訟代理人がついていないのと同じ扱いになります。
被告に代理人がついていて被告代理人(弁護士)に第1審判決が送達されたがそれまでに被告本人が死亡していたため、控訴期間内に別の弁護士が相続人3名の名前で控訴状及び受継申立書を作成して第1審裁判所(山口地裁下関支部)に提出したのに対して、これを受理した裁判所職員が訴訟手続は判決送達とともに中断し、死亡後3か月間は受継申立てができないと述べたために代理人がその指示に従って控訴状を撤回し、死亡後3か月を経て再び控訴状及び受継申立書を提出したが、控訴審裁判所(広島高裁)は控訴が控訴期間を徒過してなされた不適法なものとして却下しました(広島高裁1971年9月20日判決)。
最高裁1972年5月25日第一小法廷判決は、「本件控訴状は、その控訴期間内である同年四月一四日第一審受訴裁判所に提出されて受理されているのであるから、その時控訴の効力が生じたものということができ、この効力は、前記のような事情のもとでなされた控訴状の撤回によつては消滅しないと解するのが相当である。したがつて、原審が本件控訴を控訴期間経過後に提起された不適法なものとして却下したのは、結局審理を尽さなかつた違法があるに帰着するものであつて、原判決は破棄を免れない。」として、原判決を破棄して差し戻しました。
この事件では、裁判所職員が、訴訟委任状の委任事項に控訴が含まれていることを見落とし、当事者が死亡しても訴訟手続が中断しない場合であるのに中断していると思い込み、誤った指示をしたもので、そのように裁判所職員の誤った指示に従ったために控訴期間を経過してしまった者を救済したものです。
※労働審判の異議申立期間について、裁判所書記官の誤った指示に従ったために期間を徒過したというケースで岐阜地裁2013年2月14日判決も同様の判断をしています。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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