◆短くわかる民事裁判◆
訴訟行為の追完:代理人の疾病
判決正本を受領した代理人(弁護士)がその日に急病で意識不明となりその後判断能力が失われ、本人は判決について知らなかったために控訴の手続をしなかったという場合、控訴人の責めに帰することができない事由によるものとして控訴が適法とされるでしょうか、どのような場合に適法とされるでしょうか。
1958年12月27日に裁判所で判決正本が代理人に手渡されて交付送達され、代理人(自宅事務所で事務員の雇用もしていないようです)がその日の夕刻脳軟化症の発作で意識不明となり昏睡状態が3日間続き、意識を取り戻した後も思考力や言語能力を失った状態が翌年2月初旬まで続き、2月1日に控訴人の母が近隣の人から敗訴判決を受けたという噂を聞いて控訴人に伝え、控訴人が代理人に問い合わせたがわからず、裁判所に問い合わせて判決正本交付を聞き、改めて代理人宅に連絡をして代理人の妻が代理人の鞄を開けたら判決正本があったというのでそれから1週間後の2月9日(※2月8日が日曜日なので2月1日から1週間は2月9日まで)に控訴状を提出したというケースで、東京高裁1960年9月27日判決は一般論として、「思うに訴訟代理人の故意又は過失に原因して、不変期間を遵守することかできなかつた場合は、民事訴訟法第159条(※1998年施行の民事訴訟法改正前の現行第97条に当たる条文)にいわゆる「当事者がその責に帰すべからざる事由により不変期間を遵守すること能わざりし場合」に該当しないこと既に判例の示すところである。(最高裁判所第三小法廷昭和24年4月12日判決)凡そ当事者から訴訟の委任を受けた弁護士はその職務の重要性に鑑み、常に周到な注意を以て委任事務を遂行することを心がけねばならぬことはいうまでもない。」と、訴訟代理人(弁護士)については容易には追完(責めに帰することができない事由)を認めることができないことを判示した上で、当該代理人が1人で事務所を運営していた(他に弁護士も事務員もいない)こと、急病で昏睡状態に陥りその後も思考力及び言語能力を欠き控訴の事務処理をしうる状態になかったこと、控訴人らは代理人から病気で期日延期申請をするから出廷しなくてよいといわれていて出廷しなかったため事件がどうなったかについて知らずにいたことから、控訴期間内に控訴しなかったことが代理人の過失に基づくものと解することは酷であり弁護士に任せきっていた控訴人らの不注意を責めるのは過当であるとして、訴訟行為の追完を認め、控訴を適法としました。
かなり極限的な事例ですが、これだけの事情が重なれば、訴訟行為の追完が認められるという一例です。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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