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短くわかる民事裁判◆
訴訟行為の追完:公的な職員の事務への信頼・誤信
 控訴期間について、公的な職員の事務取扱や助言指導を信頼したために誤って認識し、その誤った認識に基づいて控訴状を提出したために控訴期限に遅れたという場合、控訴人の責めに帰することができない事由によるものとして控訴が適法とされるでしょうか、どのような場合に適法とされるでしょうか。

 古いことで私が調べて確認できないことですが、東京弁護士会が1964年から裁判所からの訴訟書類を東京弁護士会事務局(送達部)で受領して弁護士に交付するというサービスをしていたようです。そのサービスに登録して裁判所に送達受取人を東京弁護士会、送達場所を東京弁護士会事務所と届出していた弁護士に対し、1969年9月22日に東京弁護士会事務所に送達された判決について、東京弁護士会事務職員が「9月24日受送達」のゴム印を押して送付し、これを見た弁護士が控訴期間は10月8日までと考えて、10月8日に控訴状提出したところ、控訴期限徒過を理由に却下されたという事案で、最高裁1971年4月20日第三小法廷判決は、「かような場合には、訴訟代理人である弁護士○○が送達受取人として指定した東京弁護士会に過失があつたとしても、ただちに同弁護士に過失があつたものとはいい難く、したがつて、同弁護士に責があるとするのは相当ではない。けだし、かような場合、同弁護士において、同弁護士会が送達に関する民訴法の規定とそごする取扱をするごときことは、全く予想しえないところであり、同弁護士が、同弁護士会の定めた制度を利用して同会を送達受取人に指定し、その事務取扱を信頼し、これに依拠してきたことに、何ら責められるべきものはないからである。」として、訴訟行為の追完を認め、控訴を適法としました。
 判決の判示によると、東京弁護士会の事務局が、東京地裁の執行官全員と協議した上で、判決正本の送達を受けた日ではなく、弁護士に送った日を記載して「受送達」というゴム印を押すことを慣行としていたというのです。いや、それはもう誤解してくださいといってるようなものですよね。恐ろしい。

 類似のケースとして、民事裁判の控訴期間ではないですが、遺産分割審判に対する即時抗告期間について、各相続人への審判の告知が異なる場合に、告知を受けた日のうち最も遅い日から全員について即時抗告期間が一斉に進行するという取扱が当時広く行われており、その事件で裁判所書記官もそれを前提として回答し、それに基づいて最も遅い日から2週間後に即時抗告をして、自分が告知を受けた日から2週間の即時抗告期間を徒過したという場合にも、訴訟行為の追完が認められ、即時抗告が適法とされました(最高裁2003年11月13日第一小法廷決定)。それは家事事件のところで(いずれ)具体的に説明します。
※遺産分割審判に対する即時抗告期間は(民事訴訟法上の即時抗告とは違って)審判の告知を受けた日から2週間です(家事事件手続法第86条)。

 同じく類似のケースとして、控訴期間ではないですが、労働審判に対する異議申立て期間について、裁判所書記官に聞いたところ、書記官が誤った期間を回答してそれを信じたために期間を徒過したというものがあり、さすがにそれも訴訟行為の追完が認められました(岐阜地裁2013年2月14日判決)。それは労働審判のところで(いずれ)具体的に説明します。

控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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