◆短くわかる民事裁判◆
控訴提起に伴う執行停止申立て
原告勝訴の第1審判決に仮執行宣言が付されている場合、被告が控訴しても、原告は第1審判決の確定を待たずに仮執行宣言に基づいて強制執行をすることができます。
強制執行をされると困る被告は、(控訴しないなら任意に判決に従って支払うという途もありますし、控訴しつつ任意に支払うということも可能ですが)強制執行を避けるため、控訴提起をした上で裁判所に執行停止を求めることができます。
※例えば銀行取引約款では、預金の差押えを受けたときには銀行は直ちに取引停止や解約、貸金についての期限の利益喪失等をできることになっているのが通常ですから、被告が企業・事業者の場合、強制執行を受けると銀行からの融資(借入金)の全額返済を求められるとか取引停止という致命的な不利益を受ける可能性があるわけです。
仮執行宣言付きの第1審判決に対する控訴に関しては、裁判所は、「原判決の取消若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと又は執行により著しい損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき」には、申立てにより、決定で、担保を立てさせて、若しくは立てさせないで、強制執行の一時の停止等(既に執行されているときは執行処分の取消も)を命ずることができるとされています(民事訴訟法第403条第1項第3号)。「疎明(そめい)」というのは、裁判業界の用語で、直ちに取り調べることのできる資料で(証人尋問等ではなく、基本的に書証で。証人尋問ができないのでその代わりに関係者の「陳述書」が多用されます)一応確からしいという程度の心証を与えることです。
控訴審で原判決が変更される可能性が「ないとはいえない」レベルですし、それがなくても(「又は」なので)著しい損害を生ずる怖れでもよいという要件なので、控訴提起に伴う執行停止はかなり緩やかに出されます(上告段階になると、この要件が「原判決の破棄の原因となるべき事情及び執行により償うことができない損害を生ずるおそれ」となりますので、ほとんどみとめられなくなります)。
実務上は、控訴提起の上で執行停止の申立てをすれば第1審判決で支払を命じられた額の7〜8割程度の担保を積む条件で、執行停止決定がなされるのがふつうです。
控訴提起に伴う執行停止申立ては書面で行わなければならず(民事訴訟規則第238条)、提出先は、事件記録のある裁判所です(民事訴訟法第403条第1項、404条第1項)。
控訴提起に伴う執行停止の申立ては申立手数料500円の納付が必要です(民事訴訟費用法第3条、別表第1 17の項イ(イ))。
手数料を納付しなければならない申立てですので、執行停止申立書はファクシミリによる提出ができません(民事訴訟規則第3条第1項第1号)。
控訴提起に伴う執行停止申立てに対しては、訴訟記録が原裁判所にあるときは、その裁判所が申立てに対する裁判をします(民事訴訟法第404条第1項)。
現実には、被告:控訴人は強制執行を受けたら困るために申立てをするのですから、控訴提起とともに執行停止の申立てをするのがふつうです(法令上はすぐにしなくてもかまいませんが)。したがって、執行停止決定をするのは原裁判所、つまり第1審判決をした裁判官であるのがふつうです。
執行停止の申立てについての裁判に対しては不服申立てはできません(民事訴訟法第403条第2項)。
執行停止申立てを却下する裁判に対しては不服申立てを認めてもよさそうですが、「申立てについての裁判」とされているので、その場合も不服申立てができないことが条文上明らかです。
もっとも、再度の申立てが制限されているわけではないので、執行停止申立てを却下された控訴人は、必要ならば再度条件・資料を整えて申立てすればいいだけですが。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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