◆短くわかる民事裁判◆
控訴取下能力と控訴能力
訴訟能力のない者の訴訟行為は無効と解され、訴訟能力の有無、基準は民法その他の法令に従うとされています(民事訴訟法第28条)。
実務上、訴訟能力はすべての場面で同じではなく、問題となる場面によって異なる解釈がなされることがあります。
最高裁1954年6月11日第二小法廷判決は、控訴の取下げにより第1審判決が確定すると生活の根拠が脅かされるという重大な結果を招くような場合について、判断能力が十分でない者が近親者に相談もなく控訴を取り下げた場合について、「被上告人は、相手方Dの訴求した、家屋の所有権移転登記とその引渡、電話加入名義の変更申請手続、動産の引渡等をなすべき旨の第一審判決を受け、右判決に対し控訴したものであつて、右控訴を取下げれば前記敗訴判決が確定し、その執行を受ける関係にあつたことが明らかである。そして、この事実と甲第二号証(戸籍謄本)、原審が中間判決において引用した証拠等によれば、もし右判決が執行せられるときは、被上告人が姉E夫婦によつて経営していたF旅館の経営に支障を来し、被上告人の生活の根拠が脅かされる結果となることは明らかであるに拘らず、被上告人は本件控訴取下の当時、すでに成年を過ぎ、且未だ準禁治産宣告を受けてもいなかつたけれども、生来、医学上いわゆる精神薄弱者に属する軽症痴愚者であつて、その家政、資産の内容を知らず、治産に関する社会的知識を欠き、思慮分別判断の能力が不良で、その精神能力は十二、三才の児童に比せられる程度にすぎず、しかも、その控訴取下は姉E夫婦や訴訟代理人に相談せずなされたこと、そのため被上告人は、控訴取下によつて前記の如き重大な訴訟上並に事実上の結果を招来する事実を十分理解することができず、控訴取下の書面を以て、漠然相手方に対する紛争の詑状の程度に考え、本件控訴取下をなしたものであること、以上の如き事実が認められるから、被上告人のなした本件控訴取下は、ひつきよう意思無能力者のなした訴訟行為にあたり、その効力を生じないものと解すべきである。」としました。
この判決は、この判示に引き続き、「かつ敗訴判決による不利益を除去するための、自己に利益な行為である関係上、被上告人においても、その趣旨を容易に理解し得たものと認められるから、本件控訴の提起はこれを有効な行為と解するを妨げない」として、同一人について、控訴の能力はあるが、控訴取下げの能力はない、言い換えれば控訴能力は控訴取下げ能力より低くてよいとしている点で興味深いものです。
もっとも、相手方が附帯控訴していて、控訴裁判所が控訴は棄却、附帯控訴認容の心証のとき(往々にして控訴審で主任裁判官からその心証を示して控訴を取り下げた方がいいと示唆されます)には控訴取下げの方が控訴人に有利と評価でき、常に控訴取下げ能力の方が高い能力を要すると定式化できるものでもないと思われます。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
**_**
**_**