◆短くわかる民事裁判◆
裁判官の勘違いと更正
裁判官が証拠の読み方を勘違いして、誤った判断をし、それに自らあるいは当事者の指摘により気がついたとき、判決(審判、調停調書、和解調書)の更正決定で正しい事実に基づいた内容に訂正することができるでしょうか。
相続人が2名の遺産分割の事件で、相手方が提出した相手方が取得する不動産についての不動産鑑定書を裁判官が読み誤って不動産価格を鑑定書の記載よりも大幅に高く評価し、その結果、相手方が相続分よりも多額の遺産を取得すると評価されるが諸般の事情から代償金の支払いは命じないという内容の遺産分割審判(広島高裁2014年7月7日決定)がなされた後、裁判官が鑑定書の読み方を誤っていたことに気づき、職権で、鑑定書を正しく読めば相手方の取得分が相続分より相当程度少額になるので抗告人に代償金の支払いを命じるという内容に更正決定をしました(広島高裁2014年7月10日決定)。
これに対して、不利益に更正された抗告人が抗告許可を申し立て、最高裁2015年3月17日第三小法廷決定は、「本件更正決定は、本件鑑定評価書における本件土地1及び2を合わせた評価額をもって本件土地1の価額とした本件更正前決定を、同評価額を本件土地1及び土地2の各面積に応じて按分して得た額をもって、本件土地1の価額とする内容のものに訂正し、これに伴って、現物分割の方法にいより本件遺産を分割する本件更正前決定を、いわゆる代償分割の方法により本件遺産を分割する内容のものに訂正するものである。しかし、更正決定は裁判書の記載内容の同一性を阻害することなく計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りを訂正することを目的とするものであるところ、以上のような本件更正前決定の内容と本件更正決定により訂正された内容とは、本件土地1の価額の算定過程及び遺産の分割の方法において大きく異なっており同一性を認めることができないものであって、本件における審理の経過に照らしても、上記の訂正が本件更正前決定の計算違い、誤記その他これらに類する誤りを訂正したものにとどまらず、本件更正前決定の内容を実質的に変更するものであることは明らかである。そうすると、本件更正決定は、更正の限度を超えた違法なものであり、その効力を生じないと解するのが相当である。」として、更正決定を破棄しました(判例時報2310号21〜22ページ)。
この事件では、更正前決定に対しても抗告許可申立てがなされて高裁が抗告許可をしていたため、最高裁は「本件更正前決定には、証拠に基づかずに本件土地1の価額を認定した違法があるといわざるを得ず、この違法が裁判に影響を及ぼすことが明らかである。」として更正前決定を破棄して原裁判所に差し戻しましたので、原審の裁判官の勘違いによる審判(即時抗告審決定)が是正されることになりました。
ケースにもよるのですが、遺産分割や財産分与では、対象財産の確定、財産評価、取得割合(相続なら寄与分や特別受益の評価を経た具体的相続分)が決まれば、結果は自ずから決まるということが多々あります。当事者も、もちろん希望はあるでしょうけれども、そこから通常決まる結果を受け容れまた期待していることが多いのではないでしょうか。裁判官が証拠等を読み間違えて評価額を勘違いして審判をしてしまった場合、正しい評価に基づいた審判に訂正することは、むしろ望ましいことではないでしょうか。特にその分けるロジックが示され、ただ個別財産の評価額を誤った場合など、結論は変わるとしても考えや基準を変えるものではなく、単純な計算違いに近いと言ってもいいのではないでしょうか。
裁判官の勘違いは、稀ということではないと思います。私が(決定確定後に)受任したケースで、一部の相続人の代理人(高裁で付いた弁護士)が分け方を示して計算書を示した和解案を提示してそれに裁判官が乗って決定を書いた事案で、銀行口座の預金が既に引き出されて費消されているのに、そしてそのことは第1審に提出された書証で明らかなのに、相続時点のままの額を前提に計算して結果を誤ったということがありました。弁護士が付いていない相続人にその実際にはもう残高のない預金が割り振られたけれども、本人は、示された計算書通りに平等に配分されていると信じていたものです。高裁での決定に対しては、不服申立ては5日以内しかできません。気づいたときにはもう不服申立てはできない状態でした。それで決定の更正の申立てを2度にわたり行いましたが、更正の限度を超えているとして却下され、抗告許可申立ても不許可でした。
私は、このようなケースは実際にはけっこうあるのではないかと思っています。しかし、高裁の決定に対する不服申立ては抗告許可申立てと特別抗告しかなく、どちらも決定告知から5日以内しかできません。裁判官の勘違いによることが明らかなケースについて、期限が制限されない更正手続ですることはできないのでしょうか。
判決については、モバイル新館の「弁論の終結と判決」でも説明しています。
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