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短くわかる民事裁判◆
3号再審事由と控訴・上告対応
 民事訴訟法第338条第1項但し書きは、確定判決に再審事由がある場合でも、「当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったとき」は再審請求ができないことを定めています。裁判・民事訴訟法業界では、これを再審の補充性(さいしんのほじゅうせい)などと呼んでいます。
 この知りながら主張しなかったときには、上訴を提起しながら上訴審においてこれを主張しない場合のみならず、上訴をしないで判決を確定させた場合も含むと解されています(最高裁1966年12月22日第一小法廷判決)。

 被告(再審原告)の妻が1979年頃に夫(被告)名義で購入した商品の代金について信販会社が立替金請求の訴訟を提起し、1980年10月4日、その訴状と期日呼出状が当時7歳9か月の娘に手渡されて送達(補充送達:民事訴訟法第106条第1項)されたがその子は訴状を被告に渡さず、被告は訴訟係属を知らず第1回口頭弁論期日を欠席し、判決言い渡し期日(第2回口頭弁論期日)の呼出状が1980年11月3日に被告の妻に手渡されて送達されたが妻はそれを被告に知らせず、欠席判決が言い渡され、判決正本が1980年11月17日に被告の妻に手渡されて送達されたが妻は被告にそれを知らせなかったため控訴もなく判決が確定し、1989年5月になり信販会社から請求を受けた被告が調査した結果確定判決を知り、再審請求をしたという事案で、最高裁1992年9月10日第一小法廷判決は、当時7歳9か月の娘に訴状等を手渡した補充送達は無効で「有効に訴状の送達がされず、その故に被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合には、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はないから、民訴法420条1項3号の事由があるものと解するのが相当である。」としました(判決で引用している民事訴訟法の条項は当時のもので現行民事訴訟法の条項とは違います)。
 そして、第2回期日呼出状と判決正本を同居の妻に手渡した補充送達は有効とした上で、有効な判決製本等の送達を受けながら控訴しなかったことが、知りながら控訴をしないで判決を確定させたことに当たるかについて、次のように判示しました。
「民訴法420条1項ただし書は、再審事由を知って上訴をしなかった場合には再審の訴えを提起することが許されない旨規定するが、再審事由を現実に了知することができなかった場合は同項ただし書に当たらないものと解すべきである。けだし、同項ただし書の趣旨は、再審の訴えが上訴をすることができなくなった後の非常の不服申立方法であることから、上訴が可能であったにもかかわらずそれをしなかった者について再審の訴えによる不服申立てを否定するものであるからである。これを本件についてみるのに、前訴の判決は、その正本が有効に送達されて確定したものであるが、上告人は、前訴の訴状が有効に送達されず、その故に前訴に関与する機会を与えられなかったとの前記再審事由を現実に了知することができなかったのであるから、右判決に対して控訴しなかったことをもって、同項ただし書に規定する場合に当たるとすることはできないものというべきである。」「そうすると、上告人に対して前訴の判決正本が有効に送達されたことのみを理由に、上告人が控訴による不服申立てを怠ったものとして、本件再審請求を排斥した原審の判断には、民訴法420条1項ただし書の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響することは明らかである」
 最高裁判決の立場上、知りながらと言えるかは(判断の遺脱の場合とは異なり)少なくとも3号再審事由との関係では判決正本等が有効に送達されたことから直ちに推認されるわけではなく、現実に知ったか(それも判決を知ったかではなく訴状が有効に送達されず、その故に前訴に関与する機会を与えられなかったという再審事由を知ったか)の問題ということになります。
最高裁1964年6月26日第二小法廷判決は、原審が再審原告代理人が1952年8月11日頃には再審事由を知っていたと認定し、上告期間が同年6日までであり上告期限後に上告して上告の追完の申立て(民事訴訟法第97条、第285条、第313条)を行ったが却下されたという事案で、「原判示認定の時期に本件再審事由を知ったというだけでは、同弁護士としては、上告審に対し、本件再審事由を上告理由として主張し、その判断を受け得る余地のなかったこと、所論のとおりである。しかし、もし、上告人ないしその訴訟代理人が上告期間内に再審事由を知つていたにもかかわらず、上告期間を徒過して上告を却下されたのだとすれば、右再審事由につき、上告審の判断を受け得る余地がなかったとはいえないから、民訴420条一項但書後段の規定の適用を妨げないわけである。」と判示しています。この判示からは、再審事由を知った時点で上訴の追完が可能だった場合に、上訴せずに再審請求しても、知りながら上訴しなかったことになるのかは微妙なところです。最高裁1992年9月10日第一小法廷判決は、再審事由を知った時点での控訴の追完の可能性にはまったく言及していません。このことは、3号再審事由を知った時点で控訴の追完の可能性がある場合であっても控訴せずに再審請求しても知りながら控訴しなかったとされることはないということか、このケースで控訴の追完の余地はないということなのかも、やや悩ましいところです。
※本件では同居の妻が判決正本等を受け取っていることから、再審事由を知らなかったことに過失や重過失がある場合にどうなるのかという関心も生じますが、これについても判断はなく、実務上は悩ましいところです。
 とりあえず、訴状の有効な送達がなく知らないうちに判決を受けたという場合、それを知った時点で控訴の追完と再審請求のどちらでも選択でき、知らなかったことに過失があったとしても関係ない(再審請求可能)と考えて動けばいいとは思いますが。

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