◆短くわかる民事裁判◆
3号再審事由:同居夫婦間の離婚訴状の子への送達
受送達者(被告)あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に、その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため、同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合において、実際にもその交付がされなかったときについては、3号再審事由があるとされました(最高裁2007年3月20日第三小法廷決定)。
このことからすれば、同居夫婦間の訴状副本が、原告に交付されて補充送達(同居者等への交付による送達:民事訴訟法第106条第1項)された場合は、当然に3号再審事由があるということになると考えられます。さて、ではその訴状副本が同居している原被告間の子(もちろん幼少の場合は別:最高裁1992年9月10日第一小法廷判決は7歳9か月の子の受送達能力を否定)に手渡されて補充送達された場合はどうなるでしょう。
訴状副本と第1回口頭弁論期日呼出状が、被告と同居する原告に交付されて補充送達され、裁判所はこの送達は無効として第1回口頭弁論期日を延期し、改めて訴状副本と期日呼出状の送達がなされ、今度は原被告と同居する長男に交付されて補充送達されました。被告は口頭弁論期日に出席せず答弁書も提出しませんでした。裁判所は改めて期日呼出状を被告宛に送達を試みましたが不在で戻され付郵便送達をしました。被告はその後も口頭弁論期日に出席せず、離婚を認める判決が言い渡され、被告には判決正本も付郵便送達され、判決が確定しました。
その後、被告が再審の訴えを提起しました。第1審(名古屋家裁2008年7月11日決定)及び第2審(名古屋高裁2008年11月14日決定)は、被告の同居の長男に交付した補充送達は有効、長男が訴状副本等の交付を受けた時点で被告と長男の間に事実上利害の対立関係が存在していたことや長男が原告の道具として利用されていたことを窺わせる資料はないから本件は送達書類が長男から被告に速やかに交付されることが期待できない場合に該当するとはいえない、送達書類を原告が持ち去ったために被告が受領できなかったとは認められないとして、被告は対象事件の手続に関与する機会を与えられていなかったとはいえず対象事件の確定判決には民事訴訟法第338条第1項第3号の再審事由があると認めるに足りないとして再審請求を棄却しました。
最高裁2009年3月10日第三小法廷決定は、再審原告の許可抗告を棄却しました(判例時報2085号10〜11ページ【15】)。
原告が同居していて、初回は原告が被告宛の訴状副本の交付を受けていること(そして原告はそれを同居している被告に交付しなかったこと)、被告の長男は原告の子でもあり原告と同居していること、その状態で被告が裁判所に連絡もせず欠席を続け判決に至っていることを考えると、裁判所が離婚の判決を言い渡したことにも、「手続に関与する機会を与えられていなかったとはいえない」とすることにも疑問がありますが、裁判所が送達の有効性を否定することに極めて消極的であること、拡大の姿勢も見えるものの3号再審事由を認めることにも極めて消極的であることから、訴状を受領できていない被告が救済されるのは最高裁2007年3月20日第三小法廷決定の事例が限界とみておくべきなのでしょう。
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