◆短くわかる民事裁判◆
3号再審事由:訴訟能力を欠く原告の法定代理人でない者による訴訟行為
代理権を欠いたことという民事訴訟法第338条第1項第3号の再審事由の最も典型的なものとして想定されるのは、未成年者や成年後見がなされるべき状態にある者(判断能力がない常態にある者)のような訴訟能力を欠く被告に、法定代理人(親権者、後見人等)がいない場合ですが、訴訟能力を欠く者を原告として、法定代理人でない者が提訴したりその後の訴訟活動(弁護士への委任も含む)を行った場合も、同様に、3号再審事由が問題になります。
訴訟能力を欠く者が原告として訴訟提起するためには、法定代理人(親権者、後見人等)が行う必要があり、判断能力がない常態にある者の場合は後見開始の申立をして後見人を選任する必要があります。
1979年頃から統合失調症(当時は精神分裂病)の診断を受けていた原告の姉が弁護士に依頼して訴状を作成しその訴状に自ら原告の署名押印をして、原告が1978年12月4日午後10時頃、被告らから暴行を受けて頭部裂傷などの障害を受けその後遺症として精神分裂病の状態に陥ったとして損害の賠償を請求する訴訟を、1988年11月28日に訴訟提起しました。裁判所は1989年4月25日、消滅時効を理由に請求棄却の判決を言い渡し、同年5月9日、その判決は控訴なく確定しました。原告の姉から依頼を受けた弁護士は原告とは一度も面接しませんでした。弁護士から成年後見開始(当時は禁治産宣告)の申立てを勧められた原告の姉は、原告の禁治産宣告を申立て、1990年5月22日、原告の後見人に就任し、弁護士に依頼して同月29日、再審の訴えを提起しました。
原判決(福岡高裁那覇支部1992年1月28日判決)は、確定判決の提起も弁護士への委任も原告の姉が代理権なく行った(法律用語としては「無権代理行為(むけんだいりこうい)」)としつつ、原告の姉が原告の後見人に就任して自分が行った無権代理行為の効力を否定することは信義則に反するということなどを理由に再審の訴えを却下すべきものと判断しました。
最高裁1995年11月9日第一小法廷判決は、「前示の事実関係によれば、前訴の訴え提起及び弁護士への訴訟委任は、何らの権限のないDが上告人のために行った無権代理行為であり、上告人本人は、Dがこのような行為をするについて何ら関与するところがなかったのであるから、前訴の提起及び弁護士への訴訟委任は本来その効力を生じ得ないものといわなければならず、たとえ原判決挙示のような事情があったとしても、その説示するように、前訴におけるDの訴訟行為がその後見人就職とともに有効となるとすることはできない。」、「そして前示したところによれば、前訴の訴え提起及び弁護士への訴訟委任はDの無権代理行為によるものであるから、前訴判決には、民訴法420条1項3号の再審事由があることが明らかであって、前訴判決は取り消されるべきであり、前訴の訴え提起が無権代理行為によるものである以上、前訴の訴えは不適法として却下されるべきものである。」として、再審請求を認めなかった原判決を破棄し、再審請求を認めなかった第1審判決を取り消し、確定判決を取り消して確定判決の原告の訴えを却下しました。(判決文中の「D」は原告の姉です。当時の民事訴訟法第420条は現在の民事訴訟法第338条に当たります)。
この判決は、最高裁が直接に、3号再審事由があることを認めて、自判により確定判決を取り消したものです。
※旧民事訴訟法事件のため、再審請求手続(開始決定)と再審(本案の審理)が区分されず一体なので、再審事由が認められるとそのまま再審の判断がなされています。
※この事件のわかりにくいところは、代理権のない者が行った訴訟行為は法定代理人がその後に追認すれば遡って有効になります(民事訴訟法第34条第2項)ので、その行為を行った者(本件では原告の姉)が自ら法定代理人(後見人)に就任すれば、追認するのが通常ですが、敗訴判決なので追認しないで、逆に後見人就任前に自らが行った訴訟行為の無効を主張して再審請求しているというところです。原判決はそれを咎めて信義則違反で許されないとしたのですが、最高裁は無効なものを被後見人のために無効と主張するのは後見人としての責務だとしてそのような主張も許されるとしたわけです。原告の姉に焦点を当てると矛盾した行為でありまた信義に反すると評価できますが、被後見人に焦点を当てれば自分に責任のないことで勝手にされた行為なのですから無効となるのが筋です。しかし、確定判決が消滅時効を理由に請求棄却ですので、訴え却下では訴訟提起による時効中断(当時の民法)の効果がなくなり新訴提起(訴え却下なら新訴提起は可能です)しても暴行の不法行為から訴え提起までの期間がさらに長くなって時効成立を争うことがさらに難しくなります。そこで原告の姉は提訴後の訴訟行為は追認せず(だから3号再審事由あり)訴え提起だけは追認すると主張して、訴え提起を残そうとしましたが、「上告人は、前訴の訴え提起行為のみは追認するとして、前訴手続のやり直しを求めているが、無権代理人がした訴訟行為の追認は、ある審級における手続が既に終了した後においては、その審級における訴訟行為を一体として不可分的にすべきものであり、一部の訴訟行為のみを選択して追認することは許されないと解すべきであるから(引用判決省略)前訴の訴え提起行為のみを追認することは許されない。」として封じられました。
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