◆短くわかる民事裁判◆
虚偽私文書作成は6号再審事由の偽造となり得るか
民事訴訟法第338条第1項第6号は、「判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。」を再審事由とし、同条第2項は「前項第4号から第7号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」と定めています。
文書偽造に関しては、作成名義を偽る(名義人でない者が作成する、作成権限のない者が作成する)ことを「有形偽造(ゆうけいぎぞう)」、作成名義人・作成権限者が作成したが内容が虚偽である場合を「無形偽造(むけいぎぞう)」と呼ぶことがあります。そして、刑法は、公文書については有形偽造(刑法第155条)、無形偽造(刑法第156条)ともに処罰を定めていますが、私文書については、無形偽造(虚偽私文書作成)は「公務所に提出すべき診断書、検案書または死亡証書」のみの処罰を定め(刑法第160条)、それ以外の虚偽の私文書の作成は処罰規定がなく、「罰すべき行為」ではありません。
そうすると、民事訴訟法第338条第2項の規定(4号〜7号再審事由は罰すべき行為があることを予定している)から考えて、民事訴訟法第338条第1項第6号の再審事由にいう「偽造」は(診断書等を除き)虚偽の私文書作成を含まないと解するのが自然です。
損害賠償請求で敗訴判決が確定した原告が、確定判決の証拠となった文書が偽造されたものであったなどの理由で再審請求をし、民事訴訟法第338条第2項の有罪判決要件について立証されていないことを理由に却下されたのに対する許可抗告において、民事訴訟法第338条第1項第6号の「偽造」には文書の有形偽造のみならず無形偽造が含まれるところ、私文書の無形偽造の場合は犯罪を構成せず、同条2項後段の有罪の判決を受けることができない場合に当たるから、この場合には有罪の判決を受けなくても再審の訴えを提起することができるなどと主張し、最高裁2015年12月16日第二小法廷決定(判例時報2310号10ページ【9】)は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として抗告を棄却しました。判例時報の記事の中で最高裁調査官は「Xの主張は、採用の余地のない独自の法律解釈を述べるにすぎないものであるように思われ、抗告の許可には検討の余地がある。」とコメントしています。
この最高裁決定に対し、再審原告が、再審原告の上記主張に対して判断していないなどとして9号再審事由(判断の遺脱)を理由として準再審の申立て(民事訴訟法第349条:確定した決定に対する再審請求)を行い、東京高裁2016年4月26日決定は、民事訴訟法第338条第1項第6号の「文書の偽造」とは、同条第2項で「罰すべき行為について」とされていることに照らして可罰のものを意味すると解すべきところ、私文書については、虚偽診断書作成を除き、準再審原告の主張するいわゆる無形偽造は犯罪にならないとされている、不可罰とされる文書偽造を再審事由とする主張はおよそ同条第1項第6号に該当せず主張自体失当というべきであるから、その当否を検討する必要はなく、判断の遺脱があったとはいえないなどとして準再審の申立を棄却しました。最高裁2016年9月13日第三作小法廷決定(判例時報2348号7ページ【7】)は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として抗告を棄却しました。
これらの決定例から、裁判所は、虚偽私文書の作成は民事訴訟法第338条第1項第6号の偽造には当たらず、そのような主張はおよそ認められず、検討する必要もないという立場を取っていることがわかります。
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