◆短くわかる民事裁判◆
送達の判断の誤りと9号再審事由
最高裁は、裁判所が送達についての判断を誤った結果、要件を満たさない控訴状却下命令や上告却下決定をしてしまったときに、9号再審事由に該当し、再審(準再審)の申立てができるとしています。
最高裁1969年2月27日第一小法廷決定は、原裁判所(高裁)が損害賠償請求事件についての判決正本の送達日を(送達報告書の誤記により)誤って認定し、上告期間内に提出された上告状を、上告期間経過後に提出された不適法なものとして上告却下決定を行ったという事案でなされた特別抗告事件で、「誤記のある送達報告書に依拠し十分な職権調査を尽くさないでされた前記上告却下決定は、ひつきよう、判決に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断を遺脱したものといわなげればならない」、「本件申立は、前記決定に対し、右再審事由をもつて再審の申立をしたものと解すべき」として、特別抗告ではなく再審申立てであるから最高裁ではなく準再審の管轄裁判所である高裁(広島高裁岡山支部)で審理させるために事件を移送しました。
最高裁1979年2月15日第一小法廷決定は、控訴人に印紙を追納するよう命じた補正命令について、郵便配達人が控訴人の父を控訴人と誤認して控訴人の父経営の喫茶店内で交付しながら控訴人の住所地で控訴人に交付したとの送達報告書を作成したために、控訴裁判所の裁判長が補正命令が控訴人に送達されたと誤って認定し、補正期間内に印紙の追納がなかったとして控訴状却下命令を行ったという事案でなされた特別抗告事件で、「送達報告書の誤つた記載に基づき申立人に有効な補正命令の送達があつたものと判断した右控訴状却下命令は、ひつきよう、命令に影響を及ぼすべき重要な事項について判断を遺脱したものであるといわなければならない」、「本件申立は、右控訴状却下命令に対し、右の事由をもつて再審申立をしたものと解すべき」として、特別抗告ではなく再審申立てであるから最高裁ではなく準再審の管轄裁判所である高裁(名古屋高裁)で審理させるために事件を移送しました。
※この場合、控訴状却下命令(高裁の裁判長の命令なので告知により確定)が確定する前に印紙を追納すれば遡って控訴状が有効になる(最高裁2015年12月17日第一小法廷決定:「訴状却下命令に対する即時抗告後の補正」で紹介しています)のですが、印紙追納前に控訴状却下命令が控訴人に送達されてしまうとそれによる救済はできません。
これらの事件で、原裁判所は送達が有効になされていることを「判断しなかった」のではなく、判断を誤ったのですから、本来の意味での「判断の遺脱」というには無理があります。同様の事情で上告提起通知書の送達日の判断を誤って適法に提出された上告理由書を不適法なものとして上告理由について判断しなかったという事案についての最高裁1964年3月24日第三小法廷判決の場合は、まさしく判断の遺脱で、最高裁は9号再審事由があると認めました(その事案については「9号再審事由認容例:最高裁1964年3月24日第三小法廷判決」で紹介しています)。上記2決定の事案では同様の過誤のために理由書提出の機会自体が奪われていて、それ故に判断の遺脱の対象がないから再審の余地がないというのでは、やはり正義に反すると思えます。そういう事情から、最高裁は、最高裁1964年3月24日第三小法廷判決と同様の過誤に起因するケースとして、9号再審事由による救済を認めたものではないかと考えられます。
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