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再審請求の原告適格:認知判決に対する父の相続人
 検察官を被告とする死後認知の訴えが提起され、父とされた者の相続人がそれを知らないうちに、認知を認める判決が言い渡されて確定し、判決確定後に初めて知った相続人(父とされた者の子と養子)が、再審請求をし、第1審は請求棄却でしたが、第2審(福岡高裁1984年6月19日判決)は本人に責任のない理由で訴訟係属を知らず手続に関与する機会を与えられなかったことを理由に原判決を取り消して差し戻す判決をし、これに対して、再審被告(認知訴訟原告)が上告した事件で、最高裁1989年11月10日第二小法廷判決は、「検察官を相手方とする認知の訴えにおいて認知を求められた父の子は、右訴えの確定判決に対する再審の訴えの原告適格を有するものではないと解するのが相当である。」として、原判決を破棄し、(請求を棄却した)第1審判決を取り消して訴えを却下しました。
 最高裁判決の理由は「民訴法に規定する再審の訴えは、確定判決の取消し及び右確定判決に係る請求の再審理を目的とする一連の手続であって(民訴法427条、428条)、再審の訴えの原告は確定判決の本案についても訴訟行為をなしうることが前提となるところ、認知を求められた父の子は認知の訴えの当事者適格を有せず(人事訴訟手続法32条2項、2条3項)、右訴えに補助参加をすることができるにすぎず、独立して訴訟行為をすることができないからである。なるほど、認知の訴えに関する判決の効力は認知を求められた父の子にも及ぶが(同法32条1項、18条1項)、父を相手方とする認知の訴えにおいて、その子が自己の責に帰することができない事由により訴訟に参加する機会を与えられなかったとしても、その故に認知請求を認容する判決が違法となり、又はその子が当然に再審の訴えの原告適格を有するものと解すべき理由はなく、この理は、父が死亡したために検察官が右訴えの相手方となる場合においても変わるものではないのである。検察官が被告となる人事訴訟手続においては、真実の発見のために利害関係を有する者に補助参加の機会を与えることが望ましいことはいうまでもないが、右訴訟参加の機会を与えることなしにされた検察官の訴訟行為に瑕疵があることにはならず、前示当審判例は、第三者が再審の訴えの原告適格を有する余地のあることを判示したものと解すべきものではなく、更に、行政事件訴訟とは対象とする法律関係を異にし、再審の訴えをもって不服申立をすることが許される第三者には共同訴訟参加に準じた訴訟参加を許す旨の行政事件訴訟法22条のような特別の規定のない人事訴訟手続に、行政事件訴訟法34条の第三者の再審の訴えに関する規定を類推適用することはできない。」というものです。
 この最高裁判決は、再審の訴えの原告となっている者(認知を求められた父の子)が、当該訴え(確定判決の訴訟)で「独立して訴訟行為をすることができない」ことを原告適格を否定する理由としています。そうすると、補助参加以外の訴訟参加が認められる(民事訴訟法上の独立当事者参加や最高裁が引用する行政事件訴訟法の訴訟参加等)場合は原告適格を否定する理由はなくなります。また、この判示が実質的にこの再審請求の理由が再審原告に参加の機会が与えられなかったことにあることに重きを置き独立して訴訟行為をできない者に参加の機会が与えられなくても確定判決の手続に違法があったことにならないとしたものと考えれば、別の再審事由の場合には別に(独立当事者参加できなくても補助参加でいいのではないかと)考える余地もないではないように思えます。
※引用されている民事訴訟法及び人事訴訟法の条文は判決当時のもので現行法とは違っています。
※最高裁判決が言及している「前示当審判例」(最高裁1953年6月26日第二小法廷判決)は「該判決は第三者たる上告人に対しても効力を有するのであつて、上告人は右判決に対し再審の手続で争うのは格別、もはや反対の事実を主張して認知無効の訴を提起することを得ないのは当然である。」と判示しているのですから、ふつうに読めば第三者も再審請求の余地はあると読めるもので、「前示当審判例は、第三者が再審の訴えの原告適格を有する余地のあることを判示したものと解すべきものではなく」という判示はずいぶんと見苦しいものに思えます。

 この最高裁判決後、人事訴訟法が全面改正(新法)されて、「検察官を被告とする人事訴訟において、訴訟の結果により相続権を害される第三者(以下「利害関係人」という。)を当該人事訴訟に参加させることが必要であると認めるときは、裁判所は、被告を補助させるため、決定で、その利害関係人を当該人事訴訟に参加させることができる。」とされ(人事訴訟法第15条第1項)、死後認知の訴えについて、行政事件訴訟法第22条と同様の特別の規定が置かれました(また知らないうちに判決が出たりしないように裁判所からの通知の制度「裁判所は、人事に関する訴えが提起された場合における利害関係人であって、父が死亡した後に認知の訴えが提起された場合におけるその子その他の相当と認められるものとして最高裁判所規則で定めるものに対し、訴訟が係属したことを通知するものとする。ただし、訴訟記録上その利害関係人の氏名及び住所又は居所が判明している場合に限る。」:人事訴訟法第28条)。そのため、少なくとも認知の確定判決については、そもそも知らないうちに判決が出て確定することは防がれ、再審請求についても認知を求められた父の相続人に原告適格が認められることになります(最高裁判決の問題が立法的に解決されました)。
 加えて、この最高裁判決後民事訴訟法も全面改正され、補助参加人が再審請求できることが明記されました(民事訴訟法第45条第1項前段「補助参加人は、訴訟について、攻撃又は防御の方法の提出、異議の申立て、上訴の提起、再審の訴えの提起その他一切の訴訟行為をすることができる。」。最高裁判決当時の旧法では「参加人ハ訴訟ニ付攻撃又ハ防禦ノ方法ノ提出、異議ノ申立、上訴ノ提起其ノ他一切ノ訴訟行為ヲ為スコトヲ得」で、再審の訴えの提起は明記されていませんでした)。しかし、この現行民事訴訟法の下で、新株発行無効の訴えを認容した確定判決に対する(その無効とされた新株発行により)株主となった者の再審請求についての最高裁2013年11月21日第一小法廷決定は、「新株発行の無効の訴えに係る請求を認容する確定判決の効力を受ける第三者は、上記確定判決に係る訴訟について独立当事者参加の申出をすることによって、上記確定判決に対する再審の訴えの原告適格を有することになるというべきである。」、「上記の観点から本件独立当事者参加の適法性について検討することなく、抗告人が前訴判決の効力を受ける者であって共同訴訟的補助参加をすることができるものであるとして直ちに本件再審の訴えについての抗告人の原告適格を肯定したものであり、原審の上記判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」として、独立当事者参加の申出をし、それが適法な場合でなければ再審請求の原告適格を有しないという立場をとり続けています。最高裁のこのような姿勢は、私には疑問に思えます。

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 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
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