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再審請求と控訴・上告対応:再審の補充性
 民事訴訟法第338条第1項但し書きは、確定判決に再審事由がある場合でも、「当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったとき」は再審請求ができないことを定めています。裁判・民事訴訟法業界では、これを再審の補充性(さいしんのほじゅうせい)などと呼んでいます。
 この知りながら主張しなかったときには、上訴を提起しながら上訴審においてこれを主張しない場合のみならず、上訴をしないで判決を確定させた場合も含むと解されています(最高裁1966年12月22日第一小法廷判決)。
 ごく単純化して言えば、再審請求は、判決確定後になって初めて再審事由があることを知った場合や判決確定後に再審のできる条件が整った場合(4号〜7号再審事由についての有罪判決要件や有罪立証のための証拠、8号再審事由の判決の基礎となった裁判等の変更)にのみできるのが原則で、判決確定前に知っていたなら確定前に対処すべき(主張して判断されたらそれも含めて判断されたのだからもうそれ以上望めない)ということです。

 「当事者が」知りながらに当たるかは、訴訟代理人によって訴訟を行う場合には、まず訴訟代理人を基準する(最高裁1957年8月1日第一小法廷判決)、ここにいう当事者には訴訟代理人も含む(最高裁1963年7月11日第一小法廷判決)とされていますので、当事者(原告、被告)か訴訟代理人(弁護士)のどちらかが知っていれば、知りながらとされることになります。
※この最高裁判決はどちらも9号再審事由についての判断です。

 当事者が再審事由を「知りながら」に当たるかどうかに関して、裁判所は9号再審事由(判断の遺脱)については、特段の事情がない限り判決の送達を受けた時点で知ったものと解するとか、推定することができるとしています(「9号再審事由(判断の遺脱)と控訴・上告対応」で詳しく説明しています)。10号再審事由(前に確定した判決との抵触)についても、特別の事情がない限り(後の)確定判決の送達により再審事由を知ったものと認めるべきとする大審院の判決があります(そのように解すべきか、その当否も含めて「10号再審事由と控訴・上告対応」で詳しく説明しています)。
 他方で、3号再審事由については、実際問題訴状が被告に渡されていないとみられるからですが、訴状の送達が為された(法的に有効)ことから直ちに知ったということはできない、推定できないとしています(「3号再審事由と控訴・上告対応」で詳しく説明しています)。
 また、4号〜7号再審事由の場合、有罪判決等の確定やそれに代わるもの、さらにはそれを可能とするような証拠が判決確定後に得られた場合には、ただ書証の偽造変造や偽証を知っていたり主張してもそれで再審請求ができなくなるわけではありません(「有罪判決要件と控訴・上告対応」「有罪判決に代わるものと控訴・上告対応」で詳しく説明しています)。
 なお、8号再審事由(判決の基礎となった裁判等の変更)の場合、その性質上、再審事由は常に判決確定後に生じますので、再審の補充性、「知っていた」かどうかが問題になることはありません。
 そういった事情から、9号再審事由と10号再審事由ではこの再審の補充性、再審事由を「知った」か、判決の送達を受けてもなお知らなかった特別の事情があると言えるかが、大きなハードルとなります。
 他方、3号再審事由、4号〜7号再審事由の場合はこの問題は比較的クリアしやすいことになります。

 なお、再審事由が高裁判決に対するものの場合には、以上の議論とは別に、現行民事訴訟法(1998年1月1日施行)の下での上告理由制限との関係で、最高裁への上告・上告受理申立で主張した場合でも(最高裁がそれに対して再審事由について明示の判断をした場合を除き)、知りながら上告・上告受理申立に際して主張しなかった場合でも、知りながら上告・上告受理申立しなかった場合でも、民事訴訟法第338条第1項但し書き(再審の補充性)による制限は及ばないのではないかという議論があります。それについては「高裁判決に対する再審請求と上告対応」で説明しています。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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