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短くわかる民事裁判◆
民事再審はなぜ厳しいか
 民事裁判の確定判決に対して再審請求をしたいという相談者に私が、「民事裁判では、確定判決が誤りだという決定的証拠を発見したとしても、さらに言えば(実際にはそんなことができることはほぼ考えられませんが、理論的には)確定判決が誤りだということが100%立証できたとしてもそれだけでは再審理由になりません」と説明すると、ほとんどの人が「それは正義に反する」と強く憤ります。
 刑事裁判の場合、「有罪判決の言渡を受けた者に対して無罪(略)を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。」が再審事由となっています(刑事訴訟法第435条第6号)。まさしく、判決が誤りで、真実は違うと認められれば再審が認められるわけです。民事裁判でもそうあるべき(それが当然)だというのですね。

 刑事裁判は、一般人に対して国が処罰をするという手続き(その適性を裁判所がチェックする)で、誤って処罰がなされてはいけませんし、国自身に処罰される人の権利救済の責任があります。
 それに対して、民事裁判は、民間の紛争について、当事者(原告)がその解決のために裁判所の判断を求めてきたときに裁判所がそれに応じるという一種のサービスです。民事裁判で、裁判所は、当事者が判断を求めた場合にその限度で、当事者の提出した主張と証拠に基づいて、事実を認定し、それに契約(当事者の合意)や法律などのルールを当てはめて判断をします。裁判所自身がその紛争について真相を解明する責任を負っているものではありません。

 民事裁判は公正な手続きの下で当事者双方に主張立証を尽くさせた上で裁判所が判断するという制度です。通常の場合、当事者(原告、被告)が(争わないとか答弁書・準備書面も出さないような場合を除いて)争う姿勢を見せ言い分があるという以上、1か月程度の間隔を置いて裁判期日が何度かあり、主張(準備書面)と証拠を提出する機会が確保されます。このような主張整理段階が6か月くらい続きます(事件により1年とかそれ以上のこともままあります)。裁判になっているのですから、当事者はこの間に真剣に証拠を探し出し提出することが求められます(実際に適用されることは稀ですが、民事訴訟法上は、第1審の審理段階でさえ証拠提出を遅らせていると、時機に後れた攻撃防御方法として却下されうることが定められています:民事訴訟法第157条)し、ふつうの当事者はそうします。全面的に争う事件では、主張整理段階を終えると人証調べがなされることが多く、判決に至る事件では提訴から1年はかかるのがふつうです。民事裁判は、世間の常識では考えられないくらい遅すぎるという人が圧倒的多数派だと思います。1審判決だけでもそれだけかかり、控訴があればそれからさらに半年はかかり(近年はほとんどが半年で、それ以上かかるケースは少ないですが)、上告があればさらに長期間かかります(これも半年程度が大部分ですが)。
 民事裁判は、紛争を解決することを目的とする制度ですし、紛争には相手方当事者がいることも忘れてはなりません。判決が確定してもなお簡単に覆せるというのでは、裁判がいつまで経っても終わらず、紛争を「解決」したことになりません。敗訴当事者は納得できないのでしょうけれども、負けた側が納得できないというだけで勝訴当事者がいつまでもそれに付き合わされるというのでは、勝訴した側はたまりません。
 そのバランスをどこで取るのかは、制度の作り方の問題で、絶対的な正解があるものとは、私は思いませんが、世間の人から見ればとんでもなく長い期間、証拠提出の機会を与えられながらその間には提出しなかった証拠を負けたら後になってこういう証拠があるという敗訴当事者と、定められた期間に主張立証を尽くして勝訴した当事者を比較したとき、現在の制度を抜本的に見直すべきだという意見は少数派というのが日本の現状なのだと思います(そうでなくなれば、民事訴訟法の改正の動きが出るのだろうと思います)。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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