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短くわかる民事裁判◆
再審事由の不記載と訴え却下
 再審の訴えの訴状には、控訴状(民事訴訟法第286条第2項)、上告状・上告受理申立書(民事訴訟法第313条、第286条第2項)とは異なり、「不服の理由」つまり再審事由も記載しなければなりません(民事訴訟法第343条)。
 そして、再審の訴えは、再審期間(民事訴訟法第342条)内に提起しなければなりません。
 再審の訴えの訴状に再審事由の具体的な記載がない場合、通常の訴状の記載事項に不備がある場合と同様に裁判長が相当の期間を定めて不備の補正を命じなければならない(民事訴訟法第137条第1項)でしょうか。

 2008年2月1日に確定した敗訴判決の原告が、確定判決に9号再審事由(判断の遺脱)があるとして、2008年3月3日に再審の訴えを提起しましたが、その訴状には再審事由についての具体的な記載がありませんでした。裁判所は再審事由についての補正を命じることなく再審事由についての具体的な事実の主張を欠く不適法なものとして再審の訴えを却下しました(名古屋高裁2008年10月7日決定)。
 再審原告は、再審訴状の必要的記載事項に不備がある場合、裁判長が相当の期間を定めて補正命令を発することなく本件再審の訴えを却下した原決定には法令違反(民事訴訟法第341条、第137条第1項前段、第133条第2項第2号)があるとして許可抗告をしました。
 最高裁2008年2月5日第一小法廷決定(判例時報2085号10ページ【13】)は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」として抗告を棄却しました。
 判例時報の記事の中で最高裁調査官は、「判断遺脱を再審事由とする本件においては、再審の訴えの出訴期間内に再審事由の具体的事実が記載された書面が提出されなかったときは、再審の訴えは、その不備を補正する余地のないものというべきであり、許可には検討の余地があるように思われる。」とコメントしています。

 要するに、再審事由は、単に9号再審事由とか、確定判決には判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったなどという記載だけではだめで、判断の遺脱であれば、具体的に再審原告がどのような主張をして、確定判決がどの点の判断を遺脱したのかなどの具体的な主張を記載する必要がある、その主張を再審期間内に出す必要がある(再審期間内にはとりあえずただ9号再審事由があるとかの記載をして、後からゆっくり、再審期間経過後に具体的な主張を補充するというやり方は許されない)ということですね。
 ただ、このケースでは、再審訴状の提出が再審期間の末日(判断の遺脱の場合、判例上、特段の事情がない限り、判決正本の送達を受けた日が再審事由を知った日とされますので、結局は判決確定の日から30日が再審期間となります。2008年2月1日から30日は3月2日までですが、3月2日が日曜日のため、3月3日が末日になります)でしたので、補正を命じても(再審期間内に)補正する余地がないので、「訴えが不適法でその不備を補正することができないとき」(民事訴訟法第140条)に当たるとして、補正命令を発することなく訴え却下ができますが、再審訴状の提出が再審期間末日より前であった場合に、不備を補正する余地がないとして補正命令をしないというのは無理があるのではないかと思います。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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