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短くわかる民事裁判◆
有罪判決に代わるものと再審期間
 民事訴訟法第338条第2項が4号〜7号の再審事由について課している有罪判決要件(罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。)を、有罪の確定判決ではなく、後者の要件、例えば被疑者の死亡や公訴時効、起訴猶予などによって満たそうとする場合には、「有罪判決を得る可能性があったこと」を立証する必要があり、公訴時効等がなければ「有罪の判決を得たであろうと思わせるに足りる証拠」を提出する必要があるとされています(最高裁1967年6月20日第三小法廷判決)。
 その結果、この場合には、公訴時効等がなければ「有罪の判決を得たであろうと思わせるに足りる証拠」を入手・提出できて初めて民事訴訟法第338条第2項の要件を具備するすることになり、判決確定後にこのような証拠を入手した場合は、再審の補充性の要件はクリアできる(民事訴訟法第338条第1項但し書きの適用はない)とされています(最高裁1994年10月25日第三小法廷判決)。そうすると、再審期間の問題についても同様に解してよいように思えます。

 しかし、最高裁1977年5月27日第二小法廷判決は、「有罪の確定判決を得る可能性そのものは被疑者の死亡等の時に既に存在すべきものであるから、右再審の訴の除斥期間は、被疑者の死亡等の事実が前審判決確定前に生じたときは、同法424条3項により右判決確定の時から起算すべきであり、また、右事実が前審判決確定後に生じたときは、同条4項により右事実の生じた時から起算すべきである。本件の場合、被疑者Dの死亡は前審判決確定前であつたのであるから、同法420条1項6号に基づく再審の訴は、前審判決確定後5年の除斥期間内に提起すべきものといわなければならない。所論の再審甲第1号証の1は、前審の審理の過程においてその成立の真否が重要な争点とされた本案甲第1号証(売券証)の亡E名下の印影が同人の実印によるものであるかどうかについての鑑定書であり、その鑑定依頼・提出は有罪の確定判決を得る可能性があることについての立証方法の問題であるにすぎず、右鑑定書の作成されたのが前審判決確定後であるからといつて、その作成の日が同法424条4項にいう再審事由発生の日にあたると解するのは相当でない。」として、(5年の)再審期間の起算点は新証拠の入手日ではなく、被疑者の死亡等(と判決確定の遅い方)であるとしました。

 上で述べたように、最高裁1994年10月25日第三小法廷判決は、「民訴法420条1項6号に該当する事由を再審事由とし、かつ、同条2項の適法要件を主張する再審の訴えにおいては、被疑者の死亡等の事実が再審の訴えの対象となった判決の確定前に生じた場合であっても、文書の偽造等につき有罪の確定判決を得ることを可能とする証拠が再審の訴えの対象となった判決の確定後に収集されたものであるときは、同条1項但書には該当せず、再審の訴えが排斥されることはないというべきである。」と判示しています。
 この判決は、直接には、民事訴訟法第338条第1項但し書きの再審の補充性について判示したもので、再審期間については判示していません(事案としては公訴時効完成からは5年が経過していましたが、判決確定から5年経過前のため、新証拠入手により再審期間の起算点が影響されるかについてどのように解しても再審期間の問題はないケースで、再審期間は争点にもならず判示もありません)ので、再審期間に関する最高裁判例としては最高裁1977年5月27日第二小法廷判決が生きている形になっています。
 これが最高裁1994年10月25日第三小法廷判決により今後見直されるかが議論されています。
 学説上は、再審の補充性に関して有罪の確定判決を得ることを可能とする証拠を後から入手した場合には再審の訴えが排斥されることはないとしたこの最高裁1994年10月25日第三小法廷判決との整合性を保つために最高裁1977年5月27日第二小法廷判決を見直すべきであるという主張があり(新・コンメンタール民事訴訟法[第2版]1149〜1150ページ)、他方再審の補充性(や知った日から30日の再審期間)は当事者の認識に関わるので当該証拠の存在を知らなければ再審事由を知っていたとの理解が可能であるが5年の再審期間(除斥期間)は当事者の認識を問題にしない制度であるので両者を区別することもできるともされています(最新重要判例250民事訴訟法260ページ)。

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