◆短くわかる民事裁判◆
職分管轄:地裁か家裁か
家事事件については、基本的には1審の裁判所は家庭裁判所(家裁:かさい)になります。
ただし、家庭裁判所が管轄を持つのは、民事では、家事事件手続法が定める家庭に関する事件の審判と調停、人事訴訟法が定める人事訴訟の1審に限られていますので、一般の感覚では家事事件に含まれるものであってものそれ以外の形で訴訟が提起される場合、地方裁判所(あるいは簡易裁判所)の事件になります。
人事訴訟法が定める人事訴訟は、夫婦関係の存否に関わるもの、親子関係の存否に関するもの、養子縁組関係の存否に関するものに限られています。個別に言えば、夫婦関係では、婚姻の無効及び取消の訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消の訴え、婚姻関係の存否の確認の訴えです。親子関係では、嫡出否認(ちゃくしゅつひにん)の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消の訴え、女性の再婚の際に民法の規定上父が定まらないときに父を定めることを目的とする訴え、実親子関係の存否の確認の訴えが定められています。養子縁組関係では、養子縁組の無効及び取消の訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消の訴え、養親子関係の存否の確認の訴えが定められています。
訴えはさまざまな方法で起こすことができますので、家庭に関する事件でも、人事訴訟法で定める人事訴訟以外の形で提起する場合には、家庭裁判所ではなく地方裁判所の事件になります。
夫婦関係の争いの場面では、例えば夫婦・親族間での子の取り合いがあって子が連れ去られているときに親権者が相手に対して子の引渡請求をする場合に、家事審判として監護者指定や子の引渡を求めれば家庭裁判所の事件となりますが、親権に基づく妨害排除請求訴訟とそれを本案とする仮処分とか、人身保護請求を求めれば地方裁判所の事件になります。また、相手方に対する損害賠償請求(慰謝料請求等)は、離婚訴訟等の人事訴訟ともにする場合は家庭裁判所で取り扱いますが、離婚原因とは関係ない損害賠償や離婚訴訟をしないで(あるいは終わったあとで、離婚してから)訴えを提起するときは地方裁判所(あるいは簡易裁判所)の事件になります。
相続関係では、通常は遺産分割の調停を申し立て、調停が不成立の場合は自動的に審判に移行し、家庭裁判所内で終わるのですが、イレギュラーな問題があると地方裁判所(あるいは簡易裁判所)の事件となります。遺産分割の調停中に何か法的な問題が生じて訴えを提起するときは地方裁判所の事件になって、それが決着するまで家裁での調停等は中断したり、いったん取り下げてその問題が解決してから再度申し立ててくれということになります。典型的には遺産の範囲に争いがあり遺産確認請求訴訟が提起される、遺言や遺産分割協議書の無効が主張されその無効確認請求訴訟が提起されるなどの場合があります。また、遺言で民法上認められる遺留分より少ない遺産しかもらえなかった相続人が遺留分侵害額請求を行う場合や、一部の相続人が遺産を勝手に使い込んだとか生前に勝手に預金等を引き出したなどとして他の相続人が不当利得返還請求や損害賠償請求をする場合も、地方裁判所の事件になります。
管轄についてはモバイル新館の 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
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