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短くわかる民事裁判◆
労働基準法所定の付加金と訴訟物の価額
 労働基準法は、解雇予告手当、休業手当、時間外・休日・深夜割増賃金、年次有給休暇取得時の賃金を支払わなかった使用者に対し、裁判所は労働者の請求により使用者が支払わなかった額と同額の「付加金」の支払を命じることができると定めています(労働基準法第114条)。
 そのため、これらの支払を求めて提訴する労働者は、付加金も合わせて請求するのがふつうです(ただし、現在の最高裁の立場では第1審判決が付加金の支払を命じても、使用者が控訴して控訴審の口頭弁論終結までに未払い賃金を支払えば控訴審では付加金の支払を命じることができず、付加金はなかったことになってしまい、労働者は支払を受けられないというのが実情です)。特に残業代請求をするときは、相当高額の付加金請求をすることになります。
 この付加金請求分も訴訟物の価額に算入されるとすると、訴え提起手数料にけっこう響いてきます。特に、近年の最高裁の姿勢により、現実に支払を受けられる可能性がほとんどなくなっているのに、その分の訴え提起手数料も払わなければならないでしょうか。

 この問題は、長らく、東京高裁管内では不算入、大阪高裁管内では算入と、扱いが分かれていました。
 最高裁2015年5月19日第三小法廷決定は「 訴訟の目的の価額は管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とされているところ、民訴法9条2項は、果実、損害賠償、違約金又は費用(以下、併せて「果実等」という。)の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額を訴訟の目的の価額に算入しない旨を定めている。同項の規定が、金銭債権の元本に対する遅延損害金などのように訴えの提起の際に訴訟の目的の価額を算定することが困難な場合のみならず、それ以外の場合を含めて果実等の請求をその適用の対象として掲げ、これらの請求が訴訟の附帯の目的であるときはその価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとしているのは、このような訴訟の附帯の目的である果実等の請求については、その当否の審理判断がその請求権の発生の基礎となる主たる請求の当否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われることなどに鑑み、その価額を別個に訴訟の目的の価額に算入することなく、主たる請求の価額のみを管轄の決定や訴えの提起等の手数料に係る算定の基準とすれば足りるとし、これらの基準を簡明なものとする趣旨によるものと解される。」、「しかるところ、労働基準法114条は、労働者に対する休業手当等の支払を義務付ける同法26条など同法114条に掲げる同法の各規定に違反してその義務を履行しない使用者に対し、裁判所が、労働者の請求により、上記各規定により使用者が支払わなければならない休業手当等の金額についての未払金に加え、これと同一額の付加金の労働者への支払を命ずることができる旨を定めている。その趣旨は、労働者の保護の観点から、上記の休業手当等の支払義務を履行しない使用者に対し一種の制裁として経済的な不利益を課すこととし、その支払義務の履行を促すことにより上記各規定の実効性を高めようとするものと解されるところ、このことに加え、上記のとおり使用者から労働者に対し付加金を直接支払うよう命ずべきものとされていることからすれば、同法114条の付加金については、使用者による上記の休業手当等の支払義務の不履行によって労働者に生ずる損害の塡補という趣旨も併せ有するものということができる。そして、上記の付加金に係る同条の規定の内容によれば、同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされる付加金の請求につき、その付加金の支払を命ずることの当否の審理判断は同条所定の未払金の存否の審理判断を前提に同一の手続においてこれに付随して行われるものであるといえるから、上記のような付加金の制度の趣旨も踏まえると、上記の付加金の請求についてはその価額を訴訟の目的の価額に算入しないものとすることが前記の民訴法9条2項の趣旨に合致するものということができる。」、「以上に鑑みると、労働基準法114条の付加金の請求については、同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは、民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるものとして、その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されないものと解するのが相当である。」と判示して、付加金の額は、(付加金だけを請求する場合は別として)訴訟物の価額に算入しないという判断をしましました。

 訴え提起手数料については「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
  

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