庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

短くわかる民事裁判◆
多数原告による差止請求の訴訟物の価額
 原発の運転差止など、人格権に基づく差止請求の訴訟物の価額は、算定が極めて困難として160万円とみなされます(民事訴訟費用法第4条第2項)。
 したがって、原告が1名で訴訟提起するのであれば、訴え提起手数料は1万3000円となります。
 しかし、こういった運転差止請求訴訟は、訴訟提起自体が運動の一環としてなされますので、多数の原告が提訴することで広く問題提起したいという思いがあります。

 その場合、訴え提起手数料はどのように考え、どのように算定すべきでしょうか。

 最高裁2000年10月13日第二小法廷決定は、周辺住民245名が原告となって提訴した林地開発行為許可処分取消請求訴訟(行政訴訟)の第1審の却下判決に対する控訴に際しての控訴提起手数料について、「本件訴訟において原告らが訴えで主張する利益は、本件処分の取消しによって回復される各原告の有する利益、具体的には水利権、人格権、不動産所有権等の一部を成す利益であり、その価額を具体的に算定することは極めて困難というべきであるから、各原告が訴えで主張する利益によって算定される訴訟の目的の価額は95万円とみなされる(費用法4条2項)。そして、これらの利益は、その性質に照らし、各原告がそれぞれ有するものであって、全員に共通であるとはいえないから、結局、本件訴訟の目的の価額は、各原告の主張する利益によって算定される額を合算すべきものである。」として、訴えで主張する利益は原告ごとにそれぞれにあるという理由で、訴訟物の価額は算定困難の場合の金額(現在は160万円)を原告の人数分合算して計算するものとしました。
 直接には行政訴訟(取消訴訟)についての判示ですが、人格権侵害に基づく差止請求も同じと考えられます。
 
 原発の設置許可処分取消請求訴訟では、かつては原告多数であっても利益は共通として原告1名の場合と同じ額の訴え提起手数料のみを納付し、そのまま訴訟を進行していたこともありました。しかし、裁判所側が原告の人数分合算した訴え提起手数料の納付を求めるようになり、現在では原告側も抵抗せずに納付するようになっています。
 裁判所/最高裁側に、運動潰しの意図がなかった、というふうには思いにくいところですが。

 訴え提起手数料については「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
  

**_**区切り線**_**

短くわかる民事裁判に戻る

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ

民事裁判の話民事裁判の話へ   もばいるモバイル新館 民事裁判の話