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短くわかる民事裁判◆
請求の趣旨・原因の記載不備を理由とする訴状却下命令
 「訴状の作成:訴状の記載事項」等で説明しているように、訴状には「当事者及び法定代理人」と「請求の趣旨及び原因」を記載しなければならず(民事訴訟法第134条第2項。2023年2月20日以前は第133条だったのですが…)、訴状の記載がそれに違反する場合は、裁判長は(裁判所と裁判長の仕分けが気になる方は「裁判長と裁判所」をお読みください)、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならず(民事訴訟法第137条第1項)、その補正命令が出されても原告が不備を補正しないときは、裁判長は、命令で、訴状を却下しなければならないとされています(民事訴訟法第137条第2項)。
 請求の趣旨は、原告が裁判所に求める判決主文です。請求の原因は「請求を特定するのに必要な事実」とされています(民事訴訟規則第53条第1項)。
 訴状却下命令については「訴状却下命令」で説明しています。
 訴状却下命令を受けた原告は、命令の告知受けた日から1週間以内に即時抗告をすることができます。

 「訴状却下命令」で説明しているように、判例集や裁判所Webに掲載されている事例では、訴状却下命令の多くは訴え提起手数料額に争いがあるとか訴訟救助が却下されるなどして訴え提起手数料が裁判所の指示通りに納付されないケースです。しかし、統計上は相当な数の訴状却下命令が出されていると考えられ、そこには請求の趣旨・請求の原因の記載の不備を理由とするものが多数あるものと思われます。

 「抗告・異議申立ての実務」(2021年、新日本法規)では、請求の趣旨・原因の記載の不備について「原告が弁護士を代理人に選任せずに自ら訴状を記載している場合において、どのような事実を前提として、いかなる法的根拠に基づき、被告に何を請求しているのかが判然としないものが少なくない。そのため、裁判長としては、訴状を精査し、善解したとしても請求の趣旨および原因が実質的に記載されていないとして訴状却下命令を発するのか、審理を開始して釈明権を行使してそれらを明らかにさせるのかを、原告の権利保護と被告の応訴負担とを考慮して選択する必要がある。」と述べています(66~67ページ:執筆者は大阪地裁判事)。

 このような請求の趣旨、請求の原因の記載不備で訴状却下命令に至ったケースは判例集等ではほとんど見ることができませんが、東京高裁1969年5月20日決定(判例タイムズ239号237ページ)は、「民事訴訟法第228条の裁判長の訴状審査権の対象は、相当額の印紙貼用の有無のほか同法第224条第1項所定の必要的記載事項の記載の有無に関する形式的事項に限られるのであって、記載された請求の趣旨、原因が捕捉しがたく不明確というが如きは本来釈明の対象に過ぎず、前示訴状審査権ないしは補正命令の対象とはならないものと解すべきである。」と判示しています。
 程度問題ということもあるとは思いますが、訴状却下命令を受けた場合の即時抗告では使い出のある判示かと思います。

 訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
  

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