◆短くわかる民事裁判◆
即時抗告状への理由記載
民事訴訟規則は、即時抗告を含む抗告について、「抗告状に原裁判の取消し又は変更を求める事由の具体的な記載がないときは、抗告人は、抗告の提起後14日以内に、これらを記載した書面を原裁判所に提出しなければならない。」と定めています(民事訴訟規則第207条)。
この規定があるので、即時抗告状には理由を記載する必要がなく、即時抗告の理由は、即時抗告期間の「裁判の告知を受けた日から1週間」(民事訴訟法第332条)ではなく、それからさらに14日間、概ね3週間の検討が可能になっているわけです。
しかし、この規定は、「抗告状に原裁判の取消し又は変更を求める事由の具体的な記載がないとき」なので、抗告状自体に理由を記載すると、原裁判所の抗告裁判所への事件送付(民事訴訟規則第206条)や抗告裁判所の決定が、理由書提出期間を待ってくれる保証はありません。
配偶者暴力防止法に基づく保護命令に対し、8月16日に抗告の趣旨及び理由を記載した即時抗告状を提出した抗告人が、同月20日、抗告理由書を追加するので決定を留保して欲しいという上申書を提出し、同月23日には抗告人から依頼を受けた弁護士が訴訟委任状を提出したが、抗告裁判所(大阪高裁)が同日、抗告棄却決定をしたという事案で、最高裁2002年11月14日第一小法廷決定は、「記録に照らすと、原審が所論代理人作成の抗告理由書の提出を待たずに決定したことに違法はない。論旨は採用することができない。」として許可抗告を棄却しています(判例時報1838号17〜18ページ【5】)。この判例時報の記事で調査官は、抗告状に抗告理由が具体的に記載されていることに加えて、原々審(保護命令発出)で審尋期日が開かれ抗告人の主張、陳述書も提出されているから「原々審におけるのと同様の主張がされている抗告状のみから保護命令の要件の存否を判断することができる事案であったといえる。」というコメントを付し、また事実関係のところで抗告棄却決定当日代理人も抗告状とほぼ同内容の抗告理由書を提出したとも記載して、当該事案での正当性妥当性を主張しています。しかし、(数日のうちに書けといわれればすでにしている主張とほぼ同内容のものしか書けないとしても)代理人が付いてあと14日間あれば、違った内容の抗告理由書がさらに提出された可能性もあると思われ、抗告裁判所の決定(大阪高裁2002年8月23日決定)がたかだか14日を待たずになされたことには疑問を感じます。
この事案は、仮に書けるケースであっても、抗告状に理由を記載することが、本来の理由書提出期間を待たずに決定をされるリスクを含むこと、また敗訴した原審の主張と変わらない上訴理由を出すことがいかに裁判所から無視されやすいかを、よく示しているように思えます。
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