◆短くわかる民事裁判◆
即時抗告の利益:いつまで申立て可能か
即時抗告がいつまで申立てができるかについては、法定の即時抗告期間(民事訴訟法第332条:裁判の告知を受けた日から1週間)とは別に、抗告の利益があるかということも問題とされます。通常抗告の場合、法定の期間の定めがありませんが、同様に、抗告の利益がなくなれば申し立てられなくなると考えられていますので、同じ問題があります。
文章提出命令の申立てを却下決定に対する即時抗告について、「文書提出命令の申立てを却下する決定をした上で、即時抗告前に口頭弁論を終結した場合には、もはや申立てに係る文書につき当該審級において証拠調べをする余地がないから、上記却下決定に対し口頭弁論終結後にされた即時抗告は不適法であると解するのが相当である。」とされています(最高裁2001年4月26日第一小法廷決定)。この場合、文書提出命令申立て却下決定の当否は控訴審の審理の対象となる(民事訴訟法第283条)から、控訴審で争えというのです。
※この場合、即時抗告が可能なら控訴審の審理対象とならない(民事訴訟法第283条但し書き)ので、本来そちらで争うべきということではなくて、最高裁で即時抗告できないと判断されたために控訴審で争えることになるのですが。
その後、裁判所が文書提出命令申立てに対する判断をしないまま口頭弁論を終結しその後に文書提出命令却下決定をして判決を言渡し、文書提出命令却下決定に対する即時抗告は口頭弁論終結後にされたから不適法として却下された事案で、最高裁2002年1月18日第二小法廷決定は、本案事件が既に原々裁判所に係属していないことから「もはや抗告の利益はないといわざるを得ず、本件抗告は、論旨について判断するまでもなく、却下を免れない。」として許可抗告を却下しています(判例時報1838号17ページ【4】)。
裁判官忌避申立てを簡易却下した決定に対する即時抗告について、地裁の合議体が簡裁事件の控訴審の口頭弁論を終結し判決言渡期日を指定したところ、当事者が裁判長の訴訟指揮について異議を申し立て、これが認められなかったため裁判官忌避の申立をし、忌避申立ての却下決定が確定し、その後後任の合議体の裁判所が改めて判決言渡期日を指定したところ、改めて裁判官3名の忌避の申立がなされたので、当該合議体の裁判所が明らかに理由がないとして忌避申立てを簡易却下した上で判決を言い渡し、その簡易却下決定に対して即時抗告がなされたという事案で、広島高裁2002年12月18日決定は、忌避申立ての対象とされた裁判官らが基本事件の審理及び裁判に関与する余地がなくなったことが明らかである方本件忌避申立ては申立ての利益を欠き不適法であり、抗告の利益もないとして即時抗告を却下したそうです。最高裁2003年2月28日第二小法廷決定はその広島高裁決定に対する許可抗告を棄却し、最高裁調査官がその解説で、「裁判官忌避の申立は、事件を担当している裁判官を当該事件に関与させなくすることを目的とするものであるから、同事件について判決の言渡しがされた場合には、もはや忌避申立ての対象とされた裁判官がその後当該事件に関与する余地はなくなって忌避の申立は意味のないものとなり、この申立てを却下した決定に対する抗告の利益も消滅するものと解されている(大審院1930年8月2日決定民集9巻759ページ)」と書いています(判例時報1866号5ページ【3】)。
※それ以前に、即時抗告ではなく許可抗告の事案ですが、控訴審で高裁の裁判長に対して忌避申立てをし、その裁判長を含む合議体が忌避申立権の濫用として自ら却下して判決の言い渡しをし、申立人が抗告許可を申立て許可されたのに対し、最高裁2001年12月20日第一小法廷決定は「忌避申立ての対象とされた裁判官を構成員とする合議体が、当該申立ては忌避申立権の濫用であるとしてこれを却下した上で、判決の言い渡しをした場合には、もはや当該裁判官が事件に関与する余地がないから、上記却下決定に対してされた抗告は不適法であると解するのが相当である。」として抗告を却下しています(判例時報1790号24〜25ページ【23】)。
このように、法定の期間内に申立てをしても、特に基本事件の進行(口頭弁論の終結や判決言渡)との関係で、もはや即時抗告できない(しても意味がない)とされてしまうことがあることに注意が必要です。
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