◆短くわかる民事裁判◆
控訴審での訴訟救助
控訴審での訴訟救助は、控訴とともに申し立てるのがふつうですが、訴訟救助の判断は控訴裁判所が行うので(1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版88~89ページ)、原審裁判所(第1審裁判所)段階では判断されず、控訴審裁判所でも控訴理由書提出段階で判断することになります。
この控訴審での訴訟救助の判断は第1審とは違ってくるでしょうか。
「抗告・異議申立ての実務」(2021年、新日本法規)では、「訴訟上の救助」に関する記述で、「勝訴の見込みの要件は、『勝訴の見込みがないとはいえない』場合に認められる。乱訴防止の趣旨で定められた要件で、かなり緩やかであるが、申立人の主張自体が失当である場合や、敗訴の公算が極めて大きいときには認められない。上記各要件は審級を異にすれば変わりうることから、審級ごとに判断される(民訴82②)。」(63~64ページ:執筆者は大阪地裁部総括判事。念のためにいうと福岡高裁那覇支部・大阪高裁各判事経験者)と記載されていますが、勝訴の見込みの判断が控訴審では厳しくなる等の記載はされず、控訴審では扱いが異なるという意識が裁判官一般にあるようには思えません。
しかし、第1審敗訴者に対しては、勝訴の見込みについて厳しく考える裁判所もあります。
東京高裁2006年3月31日決定は、国鉄清算事業団を解雇された国労組合員の雇用関係存在確認・未払い賃金・損害賠償請求訴訟で第1審で全部敗訴した労働者5名に対し、訴訟救助の要件である勝訴の見込みがないではないとはいえないことについて「第1審で全部敗訴した者が尽くすべき疎明の程度は、第1審の場合と同一ではなく、証拠関係からして、逆に、控訴審では勝訴の見込みがないとはいえないこと、第1審判決に含まれる事実上、法律上の瑕疵のため、同判決の取消の蓋然性がなくはないこと、控訴審で提出する新たな主張が新たな証拠によって裏付けられることになり、勝訴の見込みがないとはいえないこと等を、具体的に明示して疎明しなければならない。」と判示して、訴訟救助の申立てを却下しました。
またこの決定は、損害賠償請求について一部勝訴して仮執行した残りの労働者に対しては、仮執行金を得たことを理由に資力要件を欠くとして、訴訟救助の申立てを却下しました。
最高裁2006年7月6日第一小法廷決定は、「本件事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、いずれも正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました。(判例時報1972号17ページ【4】)
高裁にはこのように考えて訴訟救助に対して厳しく臨む裁判官がおり、最高裁も事例判断としてですが是認しているということは認識しておくべきでしょう。
訴訟救助については「裁判所に納める費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
モバイル新館の「訴訟費用が払えないとき(訴訟救助)」でも説明しています。
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