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短くわかる民事裁判◆
建物明渡請求:契約期間満了
 借主に、賃料の滞納等の契約違反の事情がない場合、契約期間の満了の際に(期間満了の1年前から6か月前の間に家主が借主に対して予告の通知をする必要があります)家主が契約の更新を拒絶して借主に立退きを求めるためには「正当の事由」が必要です(借地借家法第26条、第28条)。
 この「正当の事由」は、①家主側がその建物を使用する(借主を立退かせる)必要性、②借主がその建物を使用する必要性、③賃貸借のこれまでの経過、④建物の利用状況、⑤建物の現状、⑥家主が提示した立退料を考慮して判断することとされています(借地借家法第28条)。

 借主の方は、現に利用しているのですから、使用する必要性があるのは当然ですが、借りてはいるけれど現に利用(居住や営業)していないというケースもあり得ますので、その場合は家主の立退き請求の「正当の事由」が認められやすくなります。また借主が単身者で別の物件を容易に借りることができるという場合も、家主側に自己使用の必要性等が認められる場合には「正当の事由」が認められやすくなります。しかし、借主側にそういう事情がない(現に居住や営業をしており、家族特に子どもがいる、近隣の顧客中心に営業している、立地条件が営業の基礎となっている等)場合、貸主側の自己使用等の必要性がよほど強くなければ、家主側の立退き請求自体が認められないという場合が多くなります。家主がほかにも不動産を所有している場合には、現実に居住している借主を立退かせてまで自己使用する必要性があるといえるのかが問題となりますし、家主側が建て替えの必要性をいう場合にも、建物が老朽化して倒壊の恐れがあるとか行政から大規模修繕を求められているというようなことでもなければ、建て替えのために借主を立退かせる必要性があるということは認められにくいと思います。

 家主側に、それだけで借主を立退かせるほどの自己使用や建て替えの必要性があるとは言えないけれど、一応は自己使用や建て替えの必要性があるという場合は、家主が立退料を支払うことを条件として借主に立退きを命じるという判決が出ることがあります。その場合の立退料は、借主側の事情(使用する必要性の程度等)と家主側の事情(自己使用や建て替え等の必要性の程度等)を考慮して定められますから、ケースバイケースで、「相場」といえるものはありません。

 賃貸住宅の契約期間満了の際の立退き請求では、このような法的枠組みで判断されますから、裁判の場では、家主側がその建物の利用を必要とする事情、借主がその建物を必要とする事情・程度、借主が賃料を払わなかったり建物の使用法に問題があったり周囲に迷惑をかけたなどの事情(この程度が高いと、「建物明渡請求:賃料滞納」や「建物明渡請求:使用方法違反」で説明するように、それだけで明渡が認められることになりますが、ここではそれには至らない程度の事情)があるか、建物の老朽化の程度などが主張・立証され、その上で立退料によっては明渡が認められるようなケースでは、立退料はいくらが相当かということが問題となります(「借家権価格」や立退料に関する鑑定が提出されることもよくあります)。

 建物明渡請求についてはモバイル新館のもばいる 「民事裁判では何が問題になるか」でも説明しています。
 

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