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短くわかる民事裁判◆
それでも特別抗告をする意味:反論の機会を与えない即時抗告認容
 特別抗告の理由は原決定の憲法解釈の誤りその他の憲法違反に限定されていますが、高裁の決定については、抗告許可申立ては原決定をした高裁が許可しなければ最高裁の判断は得られませんので、最高裁に必ず判断させるには特別抗告しかありません。

 憲法違反とはまったくいえないけれども、高裁の決定に大きな問題があるとき、最高裁が特別抗告でそれを正すということも、稀にはあります。
 残業代請求の事案で労働者が使用者に対してタイムカードを提出させるべく文書提出命令の申立をし、地裁はそれを認容してタイムカードの提出命令を出しました。これに対して使用者が即時抗告をし、即時抗告審で陳述書を提出してタイムカードがないという主張をし、高裁はその使用者の主張を認めて地裁の文書提出命令を取り消しました。労働者には即時抗告申立書の写しも交付されず、使用者が即時抗告をしたことも知らなかったため反論もできず、高裁は労働者に意見を聞くこともしませんでした。最高裁は、「原審が、即時抗告申立書の写しを抗告人に送付するなどして抗告人に攻撃防御の機会を与えることのないまま、原々決定を取り消し、本件申立てを却下するという抗告人に不利益な判断をしたことは、明らかに民事訴訟における手続的正義の要求に反するというべきであり、その審理手続には、裁量の範囲を逸脱した違法があるといわざるを得ない。そして、この違法は、裁判に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、原決定は破棄を免れない。」として、(憲法のけの字もなく)特別抗告を認容し、高裁の原決定を破棄しました(最高裁2011年4月13日第二小法廷決定→こちら)。
 最高裁は、これまで同様のケースで、「本件において原々審の審判を即時抗告の相手方である抗告人に不利益なものに変更するのであれば、家事審判手続の特質を損なわない範囲でできる限り抗告人にも攻撃防御の機会を与えるべきであり、少なくとも実務上一般に行われているように即時抗告の抗告状及び抗告理由書の写しを抗告人に送付するという配慮が必要であったというべきである。以上のとおり、原審の手続には問題があるといわざるを得ないが、この点は特別抗告の理由には当たらないところである。」(最高裁2008年5月8日第三小法廷決定→こちら)としていたのですから、今後も特別抗告を認めてくれるかはわかりませんが。
※即時抗告審が相手方に即時抗告申立書の写し等を送付することなく即時抗告を認容する(原決定を変更する)という不意打ち問題については、民事訴訟規則の2015年改正で「法第330条(再抗告)の抗告以外の抗告があったときは、抗告裁判所は、相手方に対し、抗告状の写しを送付するものとする。ただし、その抗告が不適法であるとき、抗告に理由がないと認めるとき、又は抗告状の写しを送付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。」という規定(民事訴訟規則第207条の2第1項)が設けられて立法的に解決されました。

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