庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆弁護士の仕事
  被害者との交渉

 被害者がいる事件では、被害者との面談・交渉は非常に重要です。特に最近は被害者の意向を検察官も裁判官も気にしていますので、その重要性はどんどん高まっています。また、被疑者・被告人側からも弁護士に対する期待で大きいのは弁護士が被害者と交渉して示談してくれることです。
 しかし、これは、特に起訴前の段階では容易なことではありません。

  被害者にどうやって連絡するか

 まず、被害者の連絡先がわからないケースが多いです。元々起訴する価値があるかどうか疑問で捜査側も早く示談してもらって終わらせたいと思っているような場合は、検察官に聞けば教えてくれます。しかし、起訴・不起訴が微妙な場合(被疑者側ではそういうときこそ示談したいわけですが)なかなか教えてくれないことがあります。親告罪といって被害者の告訴がないと処罰できない事件(強姦罪とか強制わいせつ罪など)では、起訴前にはほとんど教えてくれません。
 例外的に被害者の連絡先がわかることもあります。被害者が被疑者やその知人と知り合いであるときのほかに、犯罪場所が被害者の自宅や勤務先の場合です。勾留状謄本に被害者の名前と犯罪の場所は必ず書かれていますので、これで連絡先がわかります。もっとも住居侵入強姦の場合、被害者が引っ越してしまっていることもままありますが。

  被害者との面談

 被害者に会うのは、弁護士にとっても、気の重い仕事です。
 まずは被疑者に(もちろん、被疑者が罪を認めている場合ですが)反省の態度を示してもらい、できるだけ心を込めて謝罪の手紙を書いてもらいます。そして被疑者と親族に、弁護士が交渉すれば何か魔法のように示談がまとまるなどということはあり得ない、本人と家族の示す誠意と十分な示談金がないと示談などまずできないことを話します。謝罪の手紙を被疑者から受け取って、金銭の支払いが可能な場合は誰がいくら払えるのかを話し合った上で、被害者に連絡します。
 被害者に会えた場合のその後の進行はケースバイケースです。被害者自身の意向も様々ですから、私は、基本的には、被害者の意向を聞いて進め方を決めます。被疑者の謝罪の気持ちに重きを置く被害者には示談金の話は後回しにします。金銭解決を強く望んでいる被害者にはその方向でさっさと進めます。

  被害者いろいろ・・・

 被害者の反応は全く様々です。別に強盗致傷の事件で書いてあるように、お金も払えないのに快く嘆願書を書いてくれた上に被疑者が刑務所に行かずに済むように頑張ってくれとまで言ってくれた人もいます。被害の一部しか支払えなくても、被疑者に早く立ち直って欲しいと嘆願書を書いてくれた人もいます。こういうときは胸が熱くなります。
 他方、指をけがしただけなのに腕を包帯でつって現れ自分は街頭でギターを弾いて1日平均4万3000円稼いでいるからその分の休業損害を払えと言う人や、鍵のかかったドアノブに手をかけたが入れなかったというだけの実害なしの事件で弁護士をつけて被疑者の勤務先に300万円の賠償を求め払わないとマスコミで問題にするぞと言ってくるような被害者もいます。

  嘆願書はどうする

 示談ができれば、示談書を作って署名してもらい、可能ならさらに嘆願書を書いてもらいます。
 私は、うまくいって嘆願書を書いてもらえる場合、被害者の言葉を大事にしています。被害者からどう書けばいいですかと聞かれることが多いですが、基本的に被害者の気持ちをその場で聞いてできるだけそれを再現します。まだしっくり来ないものが一部残っているならそれはそれとして表現します。定型文言では検察官や裁判官の心を捉えにくいですし、嘆願書を出せば検察官は必ず被害者に確認しますから、そのときに被害者が自分の思いは嘆願書の通りだと言ってくれなければ検察官に納得してもらえません。

  【弁護士の仕事の刑事事件関係の記事をお読みいただく上での注意】

 私は2007年5月以降基本的には刑事事件を受けていません。その後のことについても若干のフォローをしている場合もありますが、基本的には2007年5月までの私の経験に基づいて当時の実務を書いたものです。現在の刑事裁判実務で重要な事件で行われている裁判員裁判や、そのための公判前整理手続、また被害者参加制度などは、私自身まったく経験していないのでまったく触れていません。
 また、2007年5月以前の刑事裁判実務としても、地方によって実務の実情が異なることもありますし、もちろん、刑事事件や弁護のあり方は事件ごとに異なる事情に応じて変わりますし、私が担当した事件についても私の対応がベストであったとは限りません。
 そういう限界のあるものとしてお読みください。

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