◆弁護士の仕事◆
検察官交渉
検察官交渉の意義
検察官は、起訴するかどうかを決める権限を持っています。100%有罪間違いなしの場合でも検察官が起訴しないと決めたら不起訴になるのです。私は、有罪率99.8%以上の日本の刑事司法とそれを支える制度の下で、弁護士にとっての最大の武器はこの制度だと思っています。
そして、これは法律には書かれていませんが、起訴された場合でも検察官が公判で述べる求刑意見は、起訴をした検察官が決める運用になっているのです(公判担当の検察官が公判の状況を見て決めるのではありません)。
ですから、不起訴に持ち込むという起訴前弁護の最大の目標からも、有罪の場合でも量刑を軽くする(適切な刑にとどめる)という公判弁護の目標からも、起訴前の検察官との交渉は極めて重大な意味を持っているのです。
最近はわりと気軽に会ってくれる
10年前は、起訴前は弁護士に会いたがらない検察官が多かったと思います。しかし、最近は、弁護士が面会を求めたらすぐ会ってくれる、場合によると歓迎してくれる検察官がむしろ主流になりつつあるように思います。
いつ会いに行くか
私は、面会のところで説明したように、おおむね最初の1週間で3回程度被疑者と面会した段階で検察官と面談することにしています。これは弁護士の考え方によりいろいろで、とりあえずすぐ会いに行くというスタイルの人もいます。ただ私は検察官も忙しい中を会ってくれるのだからこちらも相応の準備と何らかのおみやげがあった方がいいと考えています。3回くらい会わないと事件の内容を十分に把握できないと感じることが割とありますし、弁護方針も決まらないことがままあります。やはり検察官と会うときには事件の内容を十分に把握し、こちらの方針は決めた上で、こちらはこういう方針だから、検察官にはこういう点を考慮して欲しいという話をしたいと思います。それから、弁護士が被疑者に面会に行ったことは必ず警察から検察官に連絡されています。1週間で3回程度会ってから行くと、検察官は、弁護士がまじめに取り組んでいることがわかっていますので、たいていこちらの意見に一目置いてくれます。
何を話すか
こちらの弁護方針なり事実関係についての考えを話すと、検察官によっては、こちらが知らないことを教えてくれることもあります。私は、自分がそれまでに把握した事実で検察官が知らないと思われることがあれば、惜しみなく話すようにしています。これも弁護士の考え方により違うと思います。むしろ隠し球を持つべきだという考えの弁護士が多いと思います。しかし、私は、基本的に起訴前段階で勝負することにしていますので、素直に検察官にぶつけます。それに私の経験では、起訴前の段階でいい隠し球だと思っても、公判になって検察側の証拠が開示されると結局使い物にならないケースが多いです。
検察官交渉では、弁護士としての意見と要望を述べ、検察官が話してくれたら検察官の感想や意見・見通しを聞き、こちらがそれに対して指摘できる事実を話してそれで帰ってきます。交渉といっても、議論はしません。もし、弁護士と検察官が議論してそれを聞いている第三者が判断するのなら議論して言い負かそうとしますが、判断をするのは検察官なのです。感情的な対立を生じるのは避けるべきだと思うからです。
2回目以降は?
その後、もし被害者との示談書とか嘆願書がとれれば、現物を持って検察官と面談します。そういうおみやげがなければ、後は基本的には電話でやりとりします。一度顔つなぎすれば、むしろお互い忙しいのだから電話の方がありがたいのです。
意見書の効用
私は、不起訴を狙う余地があるときは、検察官が起訴・不起訴を判断する時期の少し前(勾留期間満了の3日前あたり)に意見書を出します。説得ですから、口で言うより文字にした方が書く方も理路整然と展開できますし、読む方も冷静に読めます。顔をつきあわせて言えば途中で反論もしたくなるでしょうし感情的にもなりかねませんが、文書ならそういう心配はありません。忙しいときに無理に時間を取ってもらわなくても、文書なら時間の空いたときに読めます。そして文書だと形に残り、受け取った以上記録の中に綴じますから、決裁をする人の目に触れる可能性もあり、説得力のある内容なら無視しにくいものです。
【弁護士の仕事の刑事事件関係の記事をお読みいただく上での注意】
私は2007年5月以降基本的には刑事事件を受けていません。その後のことについても若干のフォローをしている場合もありますが、基本的には2007年5月までの私の経験に基づいて当時の実務を書いたものです。現在の刑事裁判実務で重要な事件で行われている裁判員裁判や、そのための公判前整理手続、また被害者参加制度などは、私自身まったく経験していないのでまったく触れていません。
また、2007年5月以前の刑事裁判実務としても、地方によって実務の実情が異なることもありますし、もちろん、刑事事件や弁護のあり方は事件ごとに異なる事情に応じて変わりますし、私が担当した事件についても私の対応がベストであったとは限りません。
そういう限界のあるものとしてお読みください。
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