◆弁護士の仕事◆
勾留への対抗手段
勾留に対する不服申立
身柄拘束が不当な場合に裁判官に釈放を求める手だてとして、制度上は勾留決定に対する不服申立(準抗告:じゅんこうこく)、勾留の取消請求があります。
しかし、率直に言って、ほとんど認められません。
弁護人として身柄拘束が不当であると考えるときは、勾留の前に勾留についての意見書を出すところから始めます。裁判所は検察官の勾留請求がある前は、まだ請求がないからという理由で、勾留請求後は裁判官は勾留質問で手が離せないからと言ってなかなか面会に応じてくれません。それで意見書にして出しておきます。でもよほどのことがないと勾留請求却下はありません。
勾留に対する準抗告も滅多に認められません。少年事件については少年法が「勾留状はやむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない」と規定しています。少年のひったくり事件で最初の事件での勾留の直後に自白していた余罪(最初の逮捕とは別のひったくり)について再逮捕・勾留がついたときに、1件目の勾留期間中に十分捜査可能だったのに放置して再勾留するのは「やむを得ない」とはいえないという理由で準抗告したことがありますが、簡単に退けられました。
勾留後の事情変更による取消もなかなかストレートには認めてくれません。実際には次に説明する勾留理由開示請求と勾留取消の申立を一緒にして事実上釈放してもらったことはあります(もちろん、次の説明を読めばわかるように、かなりまれなケースです)。
勾留理由開示請求
勾留されている人については「勾留理由開示請求(こうりゅうりゆうかいじせいきゅう)」という手続があります。これは憲法上明記されている権利です。公開の法廷で裁判官が勾留の理由を説明し、それに対して弁護士と被疑者が意見を述べることができます。憲法や刑事訴訟法の教科書に必ず書いてありますが、実際にはそれほど行われていません。
私は、被疑者が勾留に納得していないときは、割と軽い気持ちで請求しています。被疑者本人が納得していないのなら、被疑者がその勾留をした裁判官に自分の口で文句を言う機会を与えるのが筋だと思うからです。
勾留理由開示は、あくまでも裁判官が理由を説明するという手続で、勾留そのものを争う手続ではありません。勾留理由の説明も基本的には勾留状に書かれていることを読み上げるだけです。しかし、最近は、弁護士からの質問に答えようとする姿勢を見せる裁判官が増えてきています。ですから逮捕容疑が薄弱な事件では実質的なやりとりをできる場合もあります。実は、私は2度、勾留理由開示公判の直後に被疑者が釈放された経験があります。1件は、異例ですが、被害者である内縁の妻が思い直して被疑者に早く帰ってきて欲しいと言っている事案でした。そのケースではあえて被害者に「利害関係人」として開示請求をしてもらいました。裁判所は被害者は開示請求ができる「利害関係人」ではないという姿勢でしたが、被疑者の内妻である利害関係人として受理させました。法廷で請求者として早く釈放してくれという意見を裁判官の前で切々と訴えてもらいましたところ、勾留の延長はされずに釈放となりました。もう1件はいわゆる労働公安事件(労働組合の団体交渉要求に関係する事件で検察庁の公安部が担当する事件)で、そういう事件でしたので珍しく検察官も公判に立ち会っていました(普通の勾留理由開示公判には検察官は来ません)。勾留理由とされた犯行の内容が事件現場の状況からは難しかったことから、しつこく「現場の状況からどうしてそういう犯行が可能なのか」という質問を続けて食い下がりました。裁判官は答えに苦しみ、最後には職権で質問を打ち切られましたが、その直後に検察官が釈放しました。勾留理由開示も、事件によっては有力な手段となるものです。
【弁護士の仕事の刑事事件関係の記事をお読みいただく上での注意】
私は2007年5月以降基本的には刑事事件を受けていません。その後のことについても若干のフォローをしている場合もありますが、基本的には2007年5月までの私の経験に基づいて当時の実務を書いたものです。現在の刑事裁判実務で重要な事件で行われている裁判員裁判や、そのための公判前整理手続、また被害者参加制度などは、私自身まったく経験していないのでまったく触れていません。
また、2007年5月以前の刑事裁判実務としても、地方によって実務の実情が異なることもありますし、もちろん、刑事事件や弁護のあり方は事件ごとに異なる事情に応じて変わりますし、私が担当した事件についても私の対応がベストであったとは限りません。
そういう限界のあるものとしてお読みください。
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