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 民事事件での交渉と弁護士

ここがポイント
 弁護士が行う交渉には、紛争発生後に紛争解決のために行う交渉と、紛争発生前に取引関係に入る段階での交渉(契約交渉)がある
 弁護士に交渉を依頼するメリットは、冷静に合理的に解決しやすいこと、再度の紛争を防ぎやすいことにある。しかし、交渉には強制力がないので必ず解決するとは限らず、また弁護士に依頼したからといって極端に有利な解決は普通できない(過剰な期待は禁物)

   
民事紛争の解決のための交渉と弁護士
 法的な紛争(トラブル)が生じたとき、裁判を起こさないで、交渉(話し合い)で解決することができれば、裁判のための時間やコストをかける必要がありませんので、その方が望ましいと考えることは多いと思います。
 紛争の当事者が、直接に話し合いをしても、感情的になって冷静に話し合いができないとか、お互いに自分に有利な解決にこだわり解決点が見出せなくて、交渉がまとまらなかったり、交渉がまとまってもそれをきちんとした文書(和解契約書、合意書)にまとめておかないと、後々また新たな紛争につながる不安が残るというような場合があるでしょう。
 そのような場合、弁護士に交渉を依頼することで、話し合いが冷静に合理的に進みやすく、また弁護士が交渉をするときは、その事件が裁判になったらどういう結果になるかを予測して、基本的にはそれに近い線でとりまとめをすることになりますので、合理的な結論(「相場」と言ってもいいでしょう)で合意しやすくなりますし、交渉がまとまればその内容を契約書にして後々紛争が再燃しにくいようにすることができます。

 しかし、交渉は、相手方のあることですし、裁判と違って強制的に一定の結果を出すということはできません。弁護士に交渉を依頼したからといって、必ず交渉がまとまるというわけではありません。
 また、弁護士が行う交渉は、基本的には、裁判になったときの結果を予測してそれに近い線でまとめることになりますので、裁判になったら負けることが予測できる人が弁護士に依頼したからといって、裁判で予測される結果より大幅に有利な結果を得ることは通常期待できません。裁判になったら勝つことが予測できる人の場合でも、やはり裁判をした場合に得られる結果以上のことを交渉で得ることは、基本的には困難だと考えるべきです。相手方に弁護士が付かない場合に、相手方の無知につけ込んで、裁判になった場合よりも大幅に有利な結果(相手方には大幅に不利な結果)を押しつけることが可能な場合もあるかも知れません。しかし、第1に、この情報化社会で、相手方に大幅に不利な条件を押しつけようとしても、通常は相手方がネットで情報を得るなり弁護士に相談するなりして、そのことに気がつく可能性が高いのです。そうすると、相手方も軽く扱われまいとして弁護士に依頼することになるでしょうし、そうでなくても気を悪くして交渉がまとまらないという可能性が高くなります。第2に、仮に相手方にその時点では気づかれずに交渉がまとまり契約書も作成できたとしましょう。そうなればその時点では得をしたことになりますが、あまり不合理に有利な解決をすると、後日そのことに気づいた相手方は強く恨むことになります。和解契約書を周到に作っておけばその問題についての法的な反撃はされないとしても、何かの際に、あるいは何かにかこつけてまた紛争になることが予測されます。そういうことを考えると、少なくとも私は、相手方に弁護士が付かない場合であっても、交渉の着地点は、裁判になった場合に予測される範囲の合理的なところにおくべきだと考えています。
 つまり、弁護士に依頼して交渉を行うことで、基本的には裁判を起こした場合に得られる結果に近い内容を、裁判を起こさずに、裁判を起こすよりも早く得られる可能性がある、というのが、弁護士として言えるラインなのです。

 弁護士による交渉に関しては、そういったメリットと限界を考えて、弁護士に依頼するコストとの見合いで、弁護士に交渉を依頼するか、弁護士と相談しながら自分で行うかを考えればよいと思います。

 弁護士の交渉の具体的なイメージと弁護士に依頼するかどうかの判断のポイントを、不倫相手への慰謝料請求交渉の事例で説明してみましょう → 「不倫相手への慰謝料請求交渉と弁護士」 
紛争の予防のための交渉(契約交渉)と弁護士
 弁護士が交渉を行うのは、現実に紛争が生じてからだけではありません。他人と新たな法律関係に入るときに、後々の紛争を予防するために予め約束ごとを取り決めておくことが、現代では、多くなっています。それを文書にしたものが「契約書」です。契約書の内容が不十分だと、紛争を防ぐことができず、また紛争になったときに解決ができなかったりすることになりますから、契約書の内容を予めよく検討しておくことが重要です。
 企業間では、取引を始める段階で、双方で弁護士が契約書案を検討して交渉することになり、企業側の弁護士の業務では、このようなもの(「予防法務」などと呼ばれます)の比重が高くなっています。
 事業者でない個人の場合、契約書はほとんどの場合、企業側が一方的に作成し、その内容に不満があっても内容を修正することは困難です(いやなら取引するなということになります)。しかし、企業にとって取引をしたいという希望が強い場合には、契約書の内容を修正できる場合もあり得ないではないですし、少なくとも契約書の内容が酷ければ契約しない自由はあることが多いと思います。重要な契約をする場合は、個人の場合でも、契約書に署名押印する前に、契約書の内容について弁護士に相談はしてみた方がいいでしょう。
 私は、基本的に事業者側での仕事はしないことにしていますので、契約交渉をすることはあまりありません。かつて、とある大企業が私の依頼者の所有地を利用して出店することを希望して、複雑な契約書を作ってきて、不安に思った私の依頼者が検討してくれと言って持ってきたことがあります。大企業側は依頼者にいいことづくめで説明しているのですが、契約書を読むと、大企業が数年後に出店を取りやめた場合、依頼者は土地利用を拘束されながら補償もされない上使い途が限られた建物を処理できずに大損をする可能性があることに気がつきました。私は依頼者にそのことを説明し、出店取りやめの場合の補償を明記させるように求めました。大企業側は、前例がないとして一度は拒否しましたが、よほど私の依頼者の所有地が魅力的だったのでしょう。最終的には、私の主張の線に沿って、出店取りやめの場合の補償を金額明示で契約書に入れてきました。後日、景気の動向の変化もあり、出店の話が立ち消えになりました。大企業側は、後生だから補償は勘弁してくれと言ってきましたが、金額まで予め取り決めた補償条項があるので言い訳の余地はなく、条項通りに払ってきました。
 契約交渉や契約書のチェックでは、将来どういう紛争が起きうるかということの想像力が重要です。将来どのような紛争が起きうるか、起きやすいかは、その業界の実情や慣習、当事者間の関係や取引の内容によって様々です。弁護士の経験と力量だけに頼られても限界があります。依頼する側でもそのあたりを弁護士によく説明することが大事だと思います。

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