庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  ◆弁護士の仕事

 弁護士の専門分野

ここがポイント
 弁護士は、法律上・資格上は、すべての法律分野・法律業務を取り扱える
 その分野だけを取り扱う(他の分野はやらない)という意味での専門の弁護士は、日本にはほとんどいない
 その分野が得意か/経験件数が多いか/取り扱えるか どの意味で聞かれているかハッキリしないと答えにくい
 例えば私の場合、労働事件(特に解雇・雇い止め)と消費者問題(債務整理・過払い金請求を含む)が専門(得意)だが、一般の個人・庶民が遭遇するような民事事件は概ね取り扱っている。
   
 相談をしていると、専門分野を聞かれることが時々あります。これは弁護士にとって、なかなか答えにくいというか答え方に注意を要する質問です。

  弁護士資格は分野に分かれていません

 まず、客観的事実として、弁護士資格は、分野別ではなく法律全体を取り扱うということで試験や司法修習(弁護士になる前に一定の期間研修があります。私が弁護士になった頃は2年間でした。現在は1年間です)をしています。ですから弁護士は、法律上の資格や理論上はすべての法律分野を取り扱うことができます。ただ、アメリカと違って日本では隣接法律資格が多数あります(よく日本の弁護士数は少ないといわれますが、この時隣接法律資格のことは考慮されていません)。例えばアメリカには税法専門の弁護士が多数いますが、日本では税理士という資格がありますので、多くの弁護士は税金の問題は取り扱う資格はありますが実際には取り扱っていません。会計や特許や登記も同じです。
 交渉や裁判などの弁護士しかできない分野(簡易裁判所での裁判は、最近、司法書士も代理できるようになりましたが)でも、弁護士の専門性は、基本的には、自分の経験で獲得していくものです。少なくとも現在のところ、弁護士の知識・能力についての客観的な専門認定はありません。最近、弁護士会で専門認定が一部行われていますが、弁護士会が行う研修会に参加したことを基準としています。弁護士の専門分野というのは、結局、自分の希望と偶然から相対的に多くの事件を経験した分野ということになります。

  刑事事件だけをやるという弁護士はほとんどいません

 特定の分野の仕事だけをしている、つまり、それ以外はやっていないという意味の「専門の弁護士」というのは、日本の場合、ほとんどいないと思います。
 実は、相談中、相談者から「専門は・・・」という言葉が来て、身構えていると「民事ですか、刑事ですか」と聞かれることが少なくありません。こういう質問を受けると弁護士は、それを態度に示しませんが、ずっこけます。弁護士は専門を聞かれる以上もっと細分化された領域を聞かれると思っているからですが、現在の日本には、刑事事件だけをやっている弁護士というのはほとんどいません。民事事件を取り扱わない弁護士は、日本全国でほんの数えるほどです(その理由は、刑事事件では「お得意様」ができない:なって欲しくないこと、刑事事件の依頼者は支払能力が低いのが普通であることから、刑事事件だけでは弁護士事務所の経営が成り立たないからです)。大半の弁護士は、民事事件しか取り扱わないか、民事事件を中心としつつ刑事事件も取り扱うかのどちらかです。
(東京弁護士会が刑事事件に特化した専門の公設事務所として「北千住パブリック法律事務所」を構想しましたが、実際には民事事件も相当数扱っています)

  会社・事業者の事件をやらずに庶民の事件だけをやる弁護士も…

 さらに言えば、民事事件でも、会社・事業者の事件をやらずに個人(庶民)の事件だけを取り扱うというのは、かなり少数だと思います。会社・事業者の場合、取引先との契約や支払でのトラブルが発生することはごくふつうの業務過程で考えられますし、紛争を予防するための契約書作成や業務方法の指導なども含め、弁護士に対する需要が繰り返し継続的にありますし、支払能力もあります。これに対し、一般の個人は繰り返し法的紛争を生じるということは稀ですし、避けたいところです(私が扱う分野で言えば、同じ人が詐欺的商法に繰り返し引っかかって何度も依頼に来ることがありますが、正直哀しいです)。そして庶民だと支払能力もそれほどないことが多いです。そういうこともあって、ほとんどの弁護士は、会社・事業者からの依頼を受けることを好み、顧問会社を多く持って経営を安定させるというのが通常のビジネスモデルです。日本労働弁護団というもっぱら労働者の側で闘う弁護士団体の中心的な弁護士事務所でさえ、事務所のホームページでは顧問契約を結んで会社経営についてのアドバイスをすることや「企業法務」をやることをうたっています。
 私が2005年にこのサイトを開設する際にネットで調べた(といっても何パターンかで検索を繰り返しただけですが)限りでは、当時「庶民の弁護士」を名乗る弁護士は見当たりませんでした。今でもほとんどいないと思います。
 実際、私は、顧問会社は持たず、会社・事業者の事件は基本的にお断りして、庶民の事件ばかりをやっていますが、事務所経営は楽とはいえません。過去の依頼者の方のご愛顧(紹介・口コミ)とこのサイトを愛する方々に支えられて何とかやっているというところです。

  専門を聞かれたとき弁護士が考えること

 一般の方が弁護士に専門を聞くとき、その分野の事件が「できるか」のレベルで聞いているとき、「特にできるか」「得意か」のレベルで聞いているときがありますし、「特にできるか」がその弁護士の取扱業務の中で相対的にという意味で聞いているとき、他の弁護士との比較で聞いているときがあります。たいていの場合、そこははっきりさせずに聞かれます。
 意味合いがあいまいなまま聞かれると、普通程度にできる事件というか、現にやっているけど特にできるか得意かと聞かれればそうも言えないという領域をどう答えていいか困ります。しかも、実際には、そういう領域が一番多いわけです。
 その分野の事件ができるかのレベルで聞かれているときは、要するにその分野は専門ではない=できないという意味ですから、普通にできる分野は専門でないとは言えないわけです。でも弁護士は用語法として普通にできる程度のことを自分はその分野を専門としているとは、ふつう、言えないと思います。しかし、相談者・依頼者が弁護士に「先生の専門は何ですか」という聞き方をするときには実際にはそういうレベルで聞いていることが多いように思えます。
 特にできるかというレベルで聞かれているときも、自分の取扱分野の中でどの分野の事件が多いか、相対的に得意かという意味ならば比較的答えやすいですが、他の弁護士と比べてどうかということになると、客観的な基準はあまりありませんからまじめに答えようとすると大変です。
 もし他の弁護士との比較をも入れてまじめに答えようとすると、現実の自分の取扱事件数とか事件の結果とか、自分が他の弁護士に教える側にいるか(研修で講師になるとか)とかを考えることになると思います。現在では、弁護士の間でメーリングリストが様々な分野で様々なレベルで発達しています。特定の分野のためのメーリングリストでは最先端の議論や情報が交わされています(とっても初歩的な質問がされることもありますが)。もし他の弁護士との比較での専門能力をまじめに評価するとすれば、そういう特定の分野のメーリングリストでのディープな議論にどこまでついて行けるかとか、そこで知らされる他の弁護士の獲得水準と比べて遜色ないかとかを評価することになると思います。そういうことも考えて、特にできるっていうのはそう簡単には言えないと思いますが(良心的に考えれば考えるほど)。

 ここまで説明しましたように、他の弁護士と比べて特にできるかという意味で聞かれたら、まじめに答えるのはかなり難しいのですが、実際には意味合いがあいまいなまま聞かれることがほとんどですので、たぶん多くの弁護士は答えやすい意味合いにとって答えると思います。
 その場合、現実的には、その分野あるいは相談後であればその事件そのものをやりたいかやりたくないかで答が左右されがちだと思います。たいていの弁護士にとって、一般の方が相談に来る多くの分野・事件は、「普通にできる」けど「特別に得意というほどではない」からです。つまり、聞かれている「専門」という意味合いのレベルをどう捉えるかで答が変わるし、そこがあいまいならどちらとも言えるわけです。また、考える「分野」を広く捉えるか狭く捉えるかでも評価は変わってきます。分野として広く捉えればできないあるいはやったことのない分野が出てきますから、まじめに考えれば「特にできる」とは答えられません。例えば「消費者問題」という分野分けは普通に用いられていますけど、実際にはものすごく幅広い問題が含まれます。昔は詐欺商法とかそれに類するものが消費者問題の中心でしたが、今では債務整理も証券取引等の金融商品も欠陥商品も欠陥住宅も、要するに一般人が業者と取引した結果のトラブルは何でも消費者問題と分類される感じです。そうなると消費者問題のすべての分野を得意と言える弁護士は、まじめに考えたらいないんじゃないかと思います。また逆に事件との関係では狭く捉えると、やったことがない、経験がないということになりがちです。厳密にはすべての事件はどこか違うところがありますから、一番狭く捉えれば、そういう事件はやったことがないということになりますし、広く捉えればどこか共通点が出てきますから「同種の事件」をやったことがあるということになります。その意味でも話題となっている分野や事件を広く考えるか狭く考えるかによって、得意とも得意でない(できない分野もある)とも言えるし、同種の事件をやったことがあるともやったことがないとも言えるわけです。

 このように、相談者・依頼者が聞く「専門」ということの意味合いははっきりしないことが多いのでどのレベルで答えていいか戸惑うことが多いですし、まじめに答えようとしても答えにくい性質のものです。しかも、一般の方には弁護士が特定の分野について専門だというと、それ以外の分野はできないと考える方が少なくないから、弁護士の側では営業的にも特定の分野が専門と答えにくいという状況でもあります。
 私に関していえば、通常は専門を聞かれると、今までのところ、「労働問題と消費者問題を専門としています。他の分野ができない訳じゃないですが」というような答をしています。でも、これも正確ではありません。労働問題でも消費者問題でもその一部(労働問題では解雇や雇い止め、消費者問題では過払い金請求)は特にできると言えると思います(たぶん、このあたりは少なくとも同業者から異論を唱えられることはないと思います)が、得意とは言えず経験のない分野もあります。そのあたりはもう個別相談段階でお話しするしかないと思います(あんまり得意じゃないけどと説明した上でそれでも事情があって受けている事件だってあるわけで、そういう種類の事件を「得意じゃない」ってウェブサイトに明記して事件の相手方から指摘されたりするの嫌ですしね)。
 こういう事情で、弁護士はなかなか専門分野について明らかにしない傾向にあります。
 第二東京弁護士会の法律相談センターでは、たぶん日本で初めての試みですが、2005年の4月から、相談担当弁護士の担当表と各弁護士の取扱分野とひとことアピールをインターネットで公表し、相談者があらかじめ弁護士の取扱分野などを見て弁護士を選べるやり方を始めました(二弁の法律相談センター運営委員会元委員長ですので、二弁の法律相談センターの宣伝をしています (^^ゞ )。

 二弁の法律相談センター(四谷、デパート相談とも)のHPはこちら ←こちらのサイトから四谷法律相談センターのネット予約もできます。

 こういう試みも始まっていますので、少しずつ変わっていくとは思いますけどね。

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