庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2006年4月

33.心が安まる老子 伊藤淳子 PHP研究所
 「老子」の超訳本。「老子」ってもっとシニカルで難解だと思っていたんですが、まるで普通のビジネス書のリーダー論のように読めます。よかれあしかれ、さすがPHP研究所ってところでしょうか。

32.ひきこもり 当事者と家族の出口 五十田猛 子どもの未来社(寺子屋新書)
 過剰な愛情は結果的に愛情不足の場合と同じ、子どもに失敗させないようにすることは自分で処理する能力を身につける機会を奪うこと・・・親としてはドッキリしてしましますね。勝手に傷ついてしまう繊細な人とのつきあい方にはマニュアルはなくて、支援という「おだて」に疑問を感じたりもするし、システムに「受け入れてもらう」より人格を正当に評価された上で嫌われることの方がはるかに健全とも・・・やはり相手のことを思いやりつつ真摯に向き合うのが基本なんでしょうね。よほど大事な相手でないとそこまでできないけどね。私は、内容よりも「はじめに」に書かれていた、問題意識が鮮明なときは偶然に手に取った本の中にヒントを見いだすことが多い、誠実に書かれた本にはそれに答える内容がセットされているので問題意識が鮮明なときは自然と気づくということに感銘を受けました。

31.野球はベースボールを超えたのか ロバート・ホワイティング ちくまプリマー新書
 日本のプロ野球チームは親会社の宣伝のためと位置づけられているためにプロ野球自身で利益を生み出そうという努力をしていない、野球を知らない人間が意欲なく経営している、高校野球は世界的にもハイレベルだが選手(特に投手)を酷使しすぎるので選手生命が短いなど、歯切れよくいってくれてます。データ分析はアメリカの方が上、トレーナーは日本の方が上とかいう指摘もヘエと思います。

30.後遺障害にも絶対負けない!交通事故損害賠償請求バイブル 柳原三佳 情報センター出版局
 自賠責保険の請求の仕方とか関係書類の見方とかが丁寧に書いてあって、そのあたり親切なんですが、中心になっている裁判関係のところは、「画期的な判決」が並べてあって(でも判決日も出典も書いてない)「いい弁護士」に頼めばこういう判決が取れるものと誤解しそうな感じで弁護士にはちょっと引っかかります。「本書でも紹介する数々の画期的判例は”目標”にはなっても、すぐに自分のものになるわけではありません。また、この判決を勝ち取った弁護士に頼めば、自分も同じ判決を取れる、というのも大きな誤解です」(5頁)と書いていますけど、そういうところはすっかり忘れてくれる読者が多いんですね。私は、今は基本的に、交通事故は扱っていませんので、その辺は気楽に読みましたけど。

29.ヒトラー・コード(DAS BUCH HITLER) H・エーベルレ、M・ウール 講談社
 ヒトラーの側近2人をソ連側の尋問官が尋問してスターリンに提出した秘密報告書を、最近になってドイツの研究者が発掘して注釈をつけたもの。ヒトラーの言動、特にソ連軍がベルリンに近づくにつれて苛立ったり茫然とする様子がこと細かに書かれています。歴史を学ぶ人には意義のある本でしょうけど、大部にわたる本がそういう事実の羅列と、日付や登場人物の役職等の間違い等を詳細に指摘する注釈で埋められていて、普通人が読むにはとても骨が折れます(新潟出張の往復をまるまる使った上に4日かかりましたよ)。
 ソースはヒトラーのそばに最後までいた人なので1級のソースなんですが、拷問に近い尋問と脅迫で話させていることから信頼性に疑問を感じます(私は、証言者の捕まる前の写真と釈放直前のやつれ果てた写真を比べるだけで疑ってしまいます。米軍の尋問官は捕虜は厳しく扱った方がいい情報をしゃべると言っていますが・・・)。それに加えて尋問者がソ連側なので、ソ連軍が攻勢に出てヒトラーが焦る様子は思い切り書かれているけど、その前のドイツ軍が攻勢に出てソ連軍が後退する部面は全く触れられていないなど明らかに不均衡。書かれていることは事実なんだろうけど、全体像としては歪んでいる感じがします。ヒトラー個人の言動、特に焦りやいらだち、退廃的な側面に明らかに焦点が当てられ、ユダヤ人虐殺とかにはほとんど触れられていません。そういう場面を集めてこの程度なら、人物的にはけっこう禁欲的だったとも見れそう。弁護士の感覚としては、歴史の本としてよりも、尋問のやり方と尋問者の関心で出てくる証言が大きく変わるいい例とも読めます。

28.おもしろ古典教室 上野誠 ちくまプリマー新書
 勉強しなさいって言われてやるとイヤだけど、自分で読んでみると面白いって話はいいし、書かれている意味よりも今の自分がどう考えるか(何を読み取るか)が大事って指摘もいいですね。ただ、面白いって出されている例が、私にはあまりフィットしなかったので途中から失速しました。

27.マダガスカル アイアイのすむ島 島泰三 草思社
 希少種の猿アイアイはラミーという木の種を食べて生きていて、そのために特別な歯と針金のような指を持っているそうです。アイアイ探しの経過を書いた本ですが、どちらかというとアイアイのことよりマダガスカルの人の気質や風土の話が中心になっています。マダガスカルでも焼き畑のために自然破壊が相当進んでいるそうで、ビックリしました(アフガニスタンのことで国際世論は飢餓状態の多数の人のことは無視してバーミヤンの石仏破壊のことばかり言うという指摘の本を読んだすぐ後なので、こういうのも複雑な気持ちありですが)。

26.もしも宮中晩餐会に招かれたら 至高のマナー学 渡辺誠 角川Oneテーマ21
 元々縁のないテーマではありますが・・・どちらかというと料理を用意する側の苦労話の方に関心を持ちました。そこはあんまり書いてないんですけど。招かれる側の話は、窮屈そうで、引いちゃいますね。

25.「みんなの意見」は案外正しい (THE WISDOM OF CROWDS) ジェームズ・スロウィッキー 角川書店
 多数の人の様々な意見の集合(平均値など)は、多くの場合、少数の専門家の意見より正しいという話。ここで言ってるのは、話し合って決めた結論じゃなくて、バラバラに表明した意見の全体像のこと。なかなか興味深い指摘ですが、その結論の現実への応用はけっこう難しそうです。1つには、このことは、事前にはわからなくても後でなら正解がわかること(牛の体重とか、試合の勝敗とか、選挙結果とか)には当てはまるけど、政治的決断のような評価基準が定まらないものには当てはまらないとか。そして、集団の知恵が発揮されるのは、多様な構成員が、独立に(人の意見に左右されずに)意見を表明し、集団が分散していて、多数であるときだそうです。日本の場合のように均質化志向で協調的な人が集まって少数で話し合う(役所とか企業が典型でしょうね)場合は当てはまりません。むしろ大きな誤りに陥りやすいとか。考えさせられる指摘ですね。「経済学者のテレンス・オディアンが自信過剰の問題を調査したところ、医師、看護師、弁護士、エンジニア、起業家、投資銀行家などは全員自分が知っている以上のことを知っていると信じていた。」(52頁)との指摘は・・・自戒します。

24.オンリーワン ずっと宇宙に行きたかった 野口聡一 新潮社
 昨年夏にスペースシャトルで宇宙に行った野口さんの手記。宇宙での船外活動で見た地球の存在感、リアリティが表現し尽くせないもどかしさをつづる文章が、感動を伝えていいです。私としては、宇宙飛行士の養成過程での組織の様子や自己アピールのあたりを新鮮に感じました。飛ぶまでの部分を人生論として読めますね。その意味ではコロンビアの事故で延期になって待たされていた間の話がもっと具体的だとよかったんだけど。まあ、そのあたりは書きにくいでしょうね。

23.アフガニスタンから世界を見る 春日孝之 晶文社
 タリバンについて、原理主義者というレッテルで済まされるほど簡単ではないという指摘。意外に柔軟な面があるとか、穏健派もいて一枚岩でないことは指摘されているけど、このレポートを読んでもしたたかさや老練さは感じられません。そういう意味では政権維持は難しかったかなと思いました。アメリカ(ブッシュ)嫌いには、耳に逆らわないけど、その分驚きもなく、基本的に時代順に書かれているので、読みたかった最近の事情にたどり着く頃には疲れ果ててました。で、「現場にいるジャーナリストの存在意義は、第一義的に、質の高い一次情報を、現場の空気とともに、いかに的確に発信することができるかにかかっている」(あとがき)って言ってて、どうして現場を離れて2年半たってから出版したのかは疑問。ここ3年くらいの情報はほとんどないし。最後にそれがわかってガッカリでした。

22.まる子だった さくらももこ 集英社
 小学校の頃の想い出、よく覚えてますね。私は、昨年中学の同窓会が30年ぶりにあって、それから小中学校の同窓生とよくミニ同窓会してて、同じような世界に浸っています。

21.血と聖 坂東眞砂子 角川書店
 金持ちのわがまま娘タミラと修道士アルノルフォの道ならぬ恋、ドナート神父の奇蹟(空中浮遊!)を主旋律に、奉公人アウレリア、修道院の小屋番ガスパロら貧しい者の異端信仰を副旋律とする物語。「キリストが手を差しのべるのは金持ちや貴族だけだ。貧しい者の救いは土地の女神がもたらしてくれる」(36頁)というアウレリアの思いあたりから、重層的な構造が出てきて期待しました。貧しい者の視点は庶民の弁護士としては評価アップ要因ですしね。わがまま娘タミルを「魂に強く惹かれるものがあったのだ」と持ち上げるのはそう評価したアルノルフォのレベルの問題とも読めますが、アウレリアらが「善き道を往く者」と称して幽体離脱するのはリアリティがなくなってきてちょっと興ざめします。アルノルフォの挫折をアウレリアが演出するラストも、なんか小さく終わったなあって感じがしました。

20.陸軍尋問官 テロリストとの心理戦争 (THE INTERROGATORS) クリス・マッケイ、グレッグ・ミラー 扶桑社
 アフガニスタン侵攻で拘束した捕虜の尋問を担当した米軍尋問官の手記。拷問・虐待はもちろん、脅迫もジュネーブ条約違反だし、真実を聞き出すためにも有害というのが、公式見解。しかし、現場では書類を偽造してまで捕虜を騙したり脅迫して情報を聞き出し、だんだんそれに抵抗感がなくなっていくという様子が描かれています。著者自身、あとがきで「ぼくたちにしても、戦争初期にはとうてい是認できないような方法を、アフガニスタンを去る頃には受け入れるようになっていた」「アフガニスタンでの経験からも、きびしく扱えば扱うほど、捕虜は質のいい情報を、しかも早い段階で口にした」と書いています。警察でも同じなんだろうねと思いました。  

19.ちょっとしたしぐさから犬のココロがわかる本 ラブリーペット愛好会 廣済堂文庫
 犬の眉間を触るとき犬がジッとしてるのは、死角に入って見えないのでどうしていいかわからないからなんだそうな。気持ちいいんじゃないんですね。悪いことしてたなって思いました。でも、書かれてることの大半は、退屈して遊んで欲しがっているということと、序列の確認のためってことで、あまり新味は感じられないですね。

18.特盛!SF翻訳講座 翻訳のウラ技、業界のウラ話 大森望 研究社
 他の分野でもそうだけど、完璧な翻訳をする能力とプロとしてやっていけることとは別物というあたり、なんか納得しました。10年以上前の連載のリライトなので情報が古すぎるのが難点。

17.TIME SELLER 本当の「時間」の使い方 (EL VENDEDOR DE TIEMPO) フェルナンド・トリアス・デ・ベス ポプラ社
 「モモ」とは逆に、自由になる時間を買えたら・・・というお話。みんなが35年間の時間を買ってしまい経済活動は全て停止します。その解決方法が時間を売れるように(時間を通貨に)してリーズナブルな対価を受け取るというのはねえ。リーズナブルなという点にポイントがあるんでしょうけど、「灰色の男たち」の言い訳みたいな感じもします。

16.あの頃こんな球場があった 佐野正幸 草思社
 プロ野球の昔話を球場を切り口にノスタルジックにまとめたもの。私も野球世代なもんで(子どもの頃は、今と違って、野球がポピュラーでしたから)、けっこう同じような想い出に浸れました。やっぱり歳かな。

15.博士の愛した数式 小川洋子 新潮社
 事故で記憶が80分しか続かなくなり世に出ることができなくなった数学博士という、暗くなるはずの設定で、なぜかほのぼのする人間ドラマ。映画を見た後で原作を読んだの久しぶりなんです(映画、あまり見てませんからね)。映画もよかったけど、ストーリーは原作の方が、私にはしっくり来ます。

14.バッテリー6 あさのあつこ 教育画劇
 例によって(といわせてもらいます。ここまで来たら)5巻で強豪チームとの試合直前まで持って行った挙げ句、6巻はその前の1週間ばかりを延々と引っ張り、試合開始自体終わり直前。4巻からずっとクライマックスに位置づけて気を持たせた原田クンと門脇クンの対決を最後に持ってきて、なんとそこで結果を書かずにおしまい!この人、野球はあんまり興味ないんですね。これでシリーズ「完結」なんて信じられないですね。まあ、元々2巻で完結のはずだったのを3巻以降書いてきたわけですから、また気が変わって書くのかも・・・。でも、普通の作家なら、自己中の原田クンを成長させるところなのに最後までほとんど変わってないのって、ある意味ですごいですね。そのあたりが子どもに支持されてるのかも。

13.バッテリー5 あさのあつこ 教育画劇
 いつの間にか、原田クンや永倉クンより屈折したおちゃらけキャラの瑞垣クン・吉貞クンのしゃべりでもたせるようになっていますね。

12.バッテリー4 あさのあつこ 教育画劇
 3巻で強豪チームとの練習試合開始で終わっておきながら、冒頭、その試合をとばして失意の日々から入ります。野球そのものよりも、天才ピッチャー原田クンのキャッチャーをどこまでやり続けられるかという永倉クンの迷いとスランプ、それをどうにもできない原田クンのじれったさという青春ドラマ要素にポイントが置かれたお話ですね。

11.バッテリー3 あさのあつこ 教育画劇
 暴力事件で活動停止になった野球部の復活の過程で、ようやく紅白戦、強豪チームとの練習試合の工作など、野球ドラマになってきました。

10.バッテリー2 あさのあつこ 教育画劇
 2巻になってもとんがり少年原田クンと野球部の人々の人間関係ドラマが続きます。はっきりいって話の進行が遅い。読み切りの1作としてではなく6巻までまとめて一気読みする性質のお話でしょうね。

09.バッテリー あさのあつこ 教育画劇
 天才ピッチャーで他人を見下す若者の原田巧クン13歳のツッパリ青春物語。うちの子は絶賛してるんですが。そんなにとんがらなくても、と思うのは私が歳なんでしょうけど。野球ドラマと思って読むと、1巻では野球の試合が出てこずに終わり拍子抜けします(試合はなんと3巻から、それも紅白戦)。

08.ホームページ・ビルダー10スーパーリファレンス Web&HP研究会 ソーテック
 ホームページ作りのお勉強のため読んでみました。でも、このサイトはヴィジュアルに凝ってみてもねえ・・・

07.神の守り人 帰還編 上橋菜穂子 偕成社
 おそろしき神を招くことができるようになった12歳の少女アスラ。被差別民として生まれ、母を殺され、自分や近親の危機に周囲の者を殺戮しつつ、喜びも感じてしまうアスラ。この存在をどう捉えるか、なかなか哲学的な奥深さを感じました。女の子が楽しく読める読書ガイドで紹介

06.神の守り人 来訪編 上橋菜穂子 偕成社
 女用心棒バルサシリーズの第4作の前編。伝説の「おそろしき神」と被差別民と支配氏族・王族が織りなす物語に、巻き込まれた被差別民の少女を救おうとバルサとタンダが巻き込まれます。年齢を経てバルサがさらに強くなった感じ。女の子が楽しく読める読書ガイドで紹介

05.夢の守り人 上橋菜穂子 偕成社
 女用心棒バルサシリーズの第3作。舞台と登場人物は第1作の枠組みに戻っています。メインストーリーにバルサとタンダの愛がからんできます。めちゃくちゃ強い流れ者の30代女性とお人好しの待ち続ける年下男の愛って設定は希少価値。女の子が楽しく読める読書ガイドで紹介

04.みんな大変 渡辺淳一 講談社
 サバンナの動物に名前をつけて物語形式にしてありますが、動物うんちくエッセイとして読んだ方がいいでしょう。恋愛小説以外も書くんですね。

03.第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (brink) マルコム・グラッドウェル 光文社
 科学的専門的な調査よりも(専門家の)第1印象(直観)の方が正しいことがある、情報が多すぎると迅速で正しい判断ができなくなる。そんな話。でも、その第1印象で騙されたり、第1印象が先入観となって判断を誤ることもあるとも・・・。世の中簡単じゃないですね。とても興味深いテーマで面白く読めました。2/3位の量にしてくれたら(第4章まで+第5章は要約くらいにすれば)お薦め本に挙げちゃうんですけどね。

02.メディエータ3 サヨナラ、愛しい幽霊 (THE MEDIATOR : Twilight) メグ・キャボット 理論社
 3月に読んだ「メディエータ」シリーズの完結編。第1話(実は別名で書いた前作があるので第3話のようですが)ではとても元気で勇ましい少女だったスーズが、ゴーストの恋人を前にだんだん「女の子らしく」なってきて、普通の恋愛ファンタジーになってしましましたね。まあ、「プリンセス・ダイアリー」の路線から考えても、落ち着くべきところに落ち着いてるというべきでしょうか。明るい読み物ではありますが。「女の子が楽しく読める読書ガイド」には不採用です。

01.ニセ札はなぜ見破られるのか? 西島博之 不空社
 ニセ札作りとそれを見破る技術のお話。テーマは面白いけど、ニセ札鑑定の専門家の松村喜秀さんのインタビューと新聞記事が元なので、情報源がちょっと狭い感じがします。ニセ札鑑定のインタビュー記事として割り切って読めば○(マル)。

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