私の読書日記  2010年6月

16.野良女 宮木あや子 光文社
 つきあう男が全部短小の上2年間恋人なしでいたら処女膜が再生したと驚くが医者に子宮内膜症と診断され手術を勧められる派遣社員鑓水、地方の名士の娘で年上の会社社長とばかりつきあっている役員秘書朝日、遠距離恋愛ばかり続けるセキュリティソフト営業職の壺井、女を殴る男とばかりつきあっている生命保険外交員桶川、不倫ばかり続けリストカットを続ける派遣社員横山の5人の三十路前女が居酒屋などで群れて飲んだくれながら下ネタで盛り上がり明日の活力を得て男との新たな展開を繰り広げる恋愛系コメディ短編連作小説(といっても「ラブコメ」とはとてもいえない)。この作者は、私は、悲恋ものの「群青」から入ったので、こういうのも書くんだと驚きましたが、経歴から見ると逆だったかも。下ネタ暴走気味のえぐい小説です。女の本音という紹介もされていますが、それぞれの設定の極端さからしても、ギャグと見た方がいいでしょう。暴力男とばかりつきあう桶川のところで、「痛みとともに性交をすると、マリファナを吸った後みたいな陶酔感を味わえる」「少なくともこの快楽を知れば、痛みのない性交なんてサビ抜きのトロみたいなものと気付くだろう」(123〜124ページ)、慈悲深い男との優しい性交では性欲を満たせない(115ページ)、「傷とか痣があると、お客さんが憐れんで保険入ってくれるんだよね」(65ページ)とか、DV被害者が見たら逆上しそう。「本音」かどうかよりも、DV被害者をそういう目で見る・そういう目線を煽る人がいることに。

15.不気味な笑い フロイトとベルクソン ジャン=リュック・ジリボン 平凡社
 フランスの哲学者アンリ=ルイ・ベルクソンの「笑い」における笑いについてジグムント・フロイトの論文「不気味なもの」との対比で考察したパンフレットタイプの論文。モリエールの喜劇を中心に相当数の文学作品が引用されるとともに、フランス現代哲学の香りのぷんぷんする本ですから、基本的に小難しい本です。しかし、基本線は、滑稽なものと不気味なものの連続性に着目し、繰り返しやひっくり返し、不条理というようなパターンが一定の「枠」の中で自らが観客としての位置を維持できるときは滑稽さとして働き、枠が宙づりになり穴が開き自らが巻き込まれると不気味なものとなるということを論じています。暴力的に要約すると自らの掌のうち(コントロールできる)か対岸の火事で自分に深刻な影響を生じないことは笑ってみていられるが、自分が巻き込まれ先が見えない(コントロールできない)となると不気味/不安になるというようなことだと思います。ある意味、当たり前。哲学系の本を読んで、難しい言葉を使って難しい本をたくさん引用しているけど、結局言いたいことは「だから、どうしたの」って言いたくなるようなことだったりすることがよくあります。それはもちろん、私の理解が足りないというか私がディテールに関心を持てないためでしょうけど、そういうことから私はどうも哲学系の本が苦手です。それに、この本の本文は正味67ページしかないのに、訳者解説が35ページ。本文の長さの半分以上もある解説って。こういうなが〜い訳者解説にありがちですが、本文で取り上げていないことをあれこれ挙げて本文よりさらに小難しいことを書いています。そういうのは、別に自分の本で書けばいいのにと思います。

14.認め上手 人を動かす53の知恵 太田肇 東洋経済新報社
 相手にやる気を出させるために相手を認め、ほめ、表彰を活用しようという本。相手をほめてがんばらせようとしても、褒美を与えて動かすのは動物レベルのことで人間には一時的な効果はあっても持続的な効果はないし、日本では下手にほめるとほめられた人が浮いてしまい本人にも組織にも逆効果になりかねない、そこを考えてうまくほめよう、ほめるよりも相手を認めようというのが著者の主張です。昨今、従業員の責任感を高め顧客サービスを向上させるためといって従業員の氏名を表示させる企業が増えていますが、これについては従業員が意欲と責任感を高める効果はあるもののストレスでやめる従業員が増えたり、客の見ているところではきちっとやるがその分陰で手を抜くようになる例もある、名前を出して効果があるのは個人の裁量性がある場合でマニュアル通りにやることが求められる従業員の場合は客に監視させる要素が強くなり従業員はやらされているという感じを強めモチベーションは引き出せないと指摘しています(59〜67ページ)。客からの声はよいものだけを伝える(71〜74ページ)、成績発表は上位3分の1だけにする(2分の1まで発表すると名前がないものは標準以下とわかってしまう:75〜78ページ)など、従業員の意欲をくじけさせないための配慮があれこれ指摘されています。人間を使うって難しいねという実感を持ちますが、同時にいかにコストをかけずに従業員にたくさん仕事をさせるかという目的の本ですから経営者の本音をいかに隠して巧妙に従業員を操作するかといういやらしさがつきまといます。

13.競売不動産を買うときの基礎知識 小柴一生 ぱる出版
 一般人が裁判所の競売手続で不動産を買う際の手続や注意点を解説した本。比較的わかりやすく書かれていると思いますが、それでも法律用語が頻繁に登場するので、一般人がどこまで読めるかはやや疑問です。まぁこの程度の法律用語に怖じ気づく人はそもそも競売なんぞに近寄るなという足切りの意味もあるかもしれませんが。旧法時代に書いた本の再改訂ということからかなと思いますが、売却基準価額と最低売却価額(買受可能価額)が混同されているところが少なからず見受けられますし、事例と本文で数字が合ってなかったり(142、172ページ等)、作りが雑な印象を受けます。実事例によるシミュレーションでは、住所等を隠しながら地図(165ページ)に「調布」「吉祥寺」の文字が残り特徴的な形の区・市境界がそのままになっていて、簡単にマンション名まで特定できてしまいます(部屋は図面で特定されてるし)。著者は法律事務所勤務の経験もあるそうですが、個人情報を守る配慮って難しいものだと、自省の念も込めて思います。

12.無銭優雅 山田詠美 幻冬舎文庫
 両親と同居し友人と小さな花屋を営む42歳独身の斉藤慈雨が、乗り物酔いのために自転車で行ける範囲を超えて遠出できない42歳バツイチ男北村栄と「運命的な」出会いをしてから恋に落ちいちゃつき続ける恋愛小説。恋愛小説といえば、普通は美男か美女が登場して恋人になるまでの思いや駆け引きが描かれ、美しい思い出や危機がありかっこよく感動的に展開するものですが、この小説では風采の上がらない中年男女が周りの者の目をまるで気にせず最初から恋に落ちて二人の世界に浸っていちゃつき続けるという点で斬新です。中年でも恋に落ちていい、劇的なことなど起こらなくてもいい、人がどう見てようが関係ないという開き直りが、むしろ快い。中年のおじさんとしては、こういう身構えないゆるい、そしててらいもなくいちゃつける関係っていいなぁと思います。ただ、アイディアはいいんだけど、後半若干の事件は起こるもののほとんど事件もなく二人がいちゃつき続ける流れが延々と続くのはちょっとだれます。中盤をもう少し省略した方がよかったんじゃないかなと思います。あと、文体がである調にですます調が混在する上に、会話に文語体が入ったりしてばらばらすぎで読みづらく感じました。

11.ありえない恋 小手鞠るい 実業之日本社
 親友の理名の弟3つ年下高校生に恋してしまった大学生未冬、未冬の父32歳年上妻子ありに恋してしまった理名、未冬の愛読書の作者に抗議のメールを送るうちにまだ見ぬ恋愛小説家森まりもに恋してしまった未冬の父、死んでしまったギタリストの恋人真人を忘れられないまりも、まりもの親友のむつみに恋してしまった真人の幽霊、結婚を直前に惑うむつみ、そしてむつみの前に現れたマジシャンは・・・というリレー形式で短編連作風に綴られた恋愛小説。年齢差や親友の家族といった点でのありえなさから、果ては幽霊の恋愛まで出す悪のりぶりでちょっとずれたシチュエーションを展開していますが、恋愛小説ですから、恋するものには何でもありな訳です。「ありえない恋」に悩む者への作者のメッセージは、「好きと思っているその感情を、全面的に認め、全面的に肯定して」「なぜなら、すべての悩みは、自分を否定するところから始まるの。否定する必要もないのに、否定してしまうことから」「どんな人にたずねても、正しい答えは見つからない。なぜなら理名ちゃんの答えは理名ちゃんの心の中にだけ、あるの」「恋には一般論は役立ちません。数学みたいに決まった答えもありません。百人の人がいたら、そこには百の恋があり、百種類の喜びがあり、悲しみがある」(75ページ)。こういう目線にこの作者の柔らかさを感じます。

10.現代語訳 帝国主義 幸徳秋水 未知谷
 大逆事件で処刑された幸徳秋水が1901年に出版した「廿世紀之怪物帝国主義」の現代語訳。比較的薄い啓発書(パンフレットというには厚すぎます)で、読んでいると、社会主義者としてよりもジャーナリストとしての論というか流れの巧さを感じます。「愛国心を論ず」では、愛国心とは国を愛することではなく他に敵を作り上げてその敵を憎むことで団結することだということが、例を挙げて繰り返し語られることでだんだんと説得されていきます。こういう例の挙げ方と繰り返しが巧みな感じです。この説得力に、政府と軍部は脅威を感じて弾圧事件と相成ったのだなと、納得してしまいます。もっとも、例のうち近代の軍人とかは、当時はよく知られていたのでしょうけど、私にはわからない・ぴんとこない例が多くて、ちょっと読みにくかったのですが。明治も後半の本を「現代語訳」とは・・・とも思いますが、明治時代の文章で岩波文庫とかいうと読むのがつらい身には、こういう試みは大変ありがたい。出版社側としてはそういう発想よりも著作権切れで利幅が大きくなるという程度の動機かもしれませんけど。

09.エスケープ! 建部健 幻冬舎
 しょぼい会社に内定をもらったばかりの将来に希望の持てない学生のシュウが、恋人のチカゲから結婚と両親との面会を求められているが積極的になれないでいるうちに、チカゲの友人のセレブのフーちゃんの豪華な暮らしを耳にし、雑誌の特集「プロが語る!空き巣手口のすべて」を読むうちにフーちゃんの家に空き巣に入るが家に人がいて失敗する話を軸に、シュウ、フーちゃんの家にいた男、チカゲの3者の視点から話を展開するコメディ小説。将来に希望の持てない若者、長年まじめに働いてきたがリストラと妻の不興を買って離婚を突きつけられる壮年男の絶望という世相を反映し、やや社会的な問題提起も感じられないでもないですが、結局は現状肯定的に不満が回収されています。そこそこ巧みにストーリーを展開させていますが、まぁ大筋読める展開ですし、ラストも小ネタで終わります。コメディですから読者をびっくりさせるよりニヤリとさせるラインを選択したのかもしれませんが、もう少しサプライズがある方がよかったかなと思います。軽い読み物としてはいいかなと思います。

08.ドーン 平野啓一郎 講談社
 人類初の有人火星探査船ドーンのクルーたちの宇宙での経験と地球帰還後の運命に、広域に張り巡らされた監視カメラ網とそのデータを顔認証検索できる「散影」システムとアメリカが介入して泥沼状態の「東アフリカ戦争」とそこでの民間戦争請負会社の開発した致死率100%のマラリア原虫を乗せた生物兵器「ニンジャ」を絡めて展開されるアメリカ大統領選の行方を描いた近未来SF小説。舞台設定は2036年で、有人火星探査や顔認証検索システム、さらにはその散影を運営する無領土国家プラネットなど、近未来的な道具は26年後ならありかなぁという適度なリアリティを持っています。でもそういうテクニカルな発展があってもアメリカ大統領選挙の争点は変わらないのねという感心とも諦めともつかぬ思いを持たされます。ちょっと、あれこれの要素をごちゃごちゃと持ち込みすぎてプロットがすっきりしない、最終的にすべてが大統領選挙に収斂するという点ではまとまっているのでしょうけど、初期にドーンのクルーの物語っぽく進んでいることもあり、なんかそっちがどうもすっきりしない感じがしてしまいます。日本語の小説なのに、どこか翻訳小説っぽいニュアンスがあるのも、好みの分かれるところでしょう。

07.教えて!左巻先生 いまさらきけない化学の疑問 左巻健男監修 技術評論社
 インターネットのQ&AサイトOKWaveの質問から化学系の質問を選んで学者や教師たちが回答を書いた本。質問がすでにできているので執筆者が作らなくてもいい上に、一般人が現実に聞いたものだから一般人の興味にそこそこ合っているので読まれやすいという、編集者にとっては安直で手堅い企画の典型ですね。執筆者が多数で答え部分のわかりやすさや文章の読みやすさに落差がありますが、企画の手堅さの方が生きて、それなりにおもしろく読めます。感度の高い血痕判定方法として刑事事件で多用されてきたルミノール反応が、血液だけじゃなくて大根おろしとか西洋わさびやキュウリでも生じるという話(159〜161ページ)はちょっとショックを受けました。古い刑事事件ではそれが原因の冤罪事件もあったのかも、と思うと。

06.遠まわりして遊びに行こう 花形みつる 理論社
 失恋して引きこもり、親から仕送りを減らすと言われ試験を忘れて語学の単位を落としたショックで部屋を出てバイトを始めることにした大学1年生の新太郎が、中学生向けの塾と小学校低学年の「遊び塾」の講師として子どもたちにいじられ絡まれながら成長する青春小説。自信がなく、しかし自意識過剰気味で変に見栄を張る、ありがちな今時の若者キャラの新太郎、いい加減で緩いけどしたたかでいざというときは頼もしいおっちゃんの塾経営者正宗、ひたすらはしゃぎ回る小学校低学年男子の「おサル」たちという3世代のキャラのギャップがいい味わいを出しています。格好つけるわりにドジでよく失敗する新太郎が落ち込んだり言い訳するのを、正宗の親父キャラや天然のおサルたちの行動が、別に気にしなくていいんじゃないと和ませていくところがうまいなぁと思いました。事件が起こるとその後をうまくつなげないのか、ぽんと時間が飛ぶところがあって、読んでいてそこに違和感が残りますが、全体としてはコメディタッチのなごみ系青春小説としていい線だと思います。

05.アンチェロッティの戦術ノート カルロ・アンチェロッティ、片野道郎 河出書房新社
 元ACミラン監督で現在チェルシー監督のカルロ・アンチェロッティへのインタビューをまとめた本。南アワールドカップも近づいたことだし、久しぶりにサッカー感覚を取り戻すためにもと読みました。「ボールポゼッションの最も大きなデメリットは、パスをつないでボールを保持し続けることの必然的な結果として、チームの組織的なバランスが崩れることだ」「ボールポゼッションが行き詰まって足が止まるような場合、ボールを奪われた時には守備の人数が足りないという状況も容易に起こり得る」「動きのないスローなボールポゼッションは、シュートにつながる局面を作り出すという本来の目的を逸脱するばかりか、逆にその目的にとって不利な非生産的状況を作り出してしまうのだ」(44〜45ページ)。私たちには、まるで日本代表のためにあるかのような文章ですが、日本代表だけの問題じゃなくてテンポの遅いパス回しは必然的にそういう状況を呼び込むものなんですね。素人目には4−4−2と4−3−1−2がそんなに違うとは思わなかったのですが、スペースやバランスを考えると大きな違いが生じ、システムそのものの優劣では決まらず保有する選手によってどのシステムが有利かが変わってくることもわかりやすく書かれています。また、具体的な試合や局面を解説した部分も、興味深く読めます。でも、読んで一番の驚きは、「はじめに」に書いてある「戦術や采配、チームマネジメントといったテーマを監督自らが取り上げた本は、イタリアにはまったく見当たらない」(9ページ)、イタリア人は毎週の試合の結果にしか興味を持たないとかいうことかも(日本でも試合の結果とゴールシーンにしか興味を持たないファンも多いみたいですけど)。

04.産まない女 栗原美和子 幻冬舎
 衆議院事務局調査法務室長の41歳独身東条愛子の性遍歴をフリーランス記者が取材して匿名で記事にする過程を軸に、代議士夫人として息子の誕生を期待されるが妊娠できず養子をとってでもと奔走する近藤貴恵を絡ませて、妊娠するけど産めない女と産みたいが妊娠できない女の葛藤と悲哀を描いた小説。といえば聞こえがいいし、おそらく作者はそういう意図で書いているんでしょうけど、この主人公の東条愛子にどうもリアリティを感じられませんでした。とりわけなぜ女性の作者がこういうキャラを書きたかったのかに疑問を持ちました。超エリート女性だが次々と男と関係を持ち妊娠しては自ら中絶して後腐れなく別れる、結局は男に都合のいい女、時に復讐を企てる怖い女としても、どちらの点からも男が描きたがるパターンのキャラに思えます。超エリート女性を、私生活の乱れや男性関係の浅はかさをネタに貶めたい、あるいはそれを望む読者層に媚びたい、そういう思惑が感じられてどうにもいやな気持ちになりました。特に前半はそちらの方に重心がある感じで、産む産まないの話は後半になってようやくテーマっぽくなります。書き下ろしだということですが、章ごとに少し途切れている感じもしますし、途中から軌道修正している感じもしました。

03.カルテット! 鬼塚忠 河出書房新社
 音楽一家の4人が家族でのカルテット演奏を通じて崩壊しかけていた関係を修復していく小説。ピアニストを目指したがあきらめて営業職に付いたもののリストラされて失業中の父直樹、妊娠して音楽教師をあきらめ今は息子をプロのヴァイオリニストにすることに賭ける母ひろみ、かつてフルートを習っていたが弟ばかりほめられることで拗ねてやめてしまった派手好きの高2の姉美咲、そして天才的な才能を見せつつも自らは発展途上に悩む中2の開。父母の諍いや勝手な行動を繰り返しふてくされる姉の態度に悩む開が、10年前に祖母の誕生日に開いた家族コンサートの写真を見つけたことをきっかけに、祖母の誕生日にまた家族コンサートをやりたいと言い出して、渋る母と姉を説得して実行するが、祖母が町内の人々を招待して大事になり、あがり症の父のピアノはうわずり練習不足の姉のフルートはぼろぼろで大失敗し、さらに険悪になってしまう。しかし、コンサートを聴きに来た老舗の音楽レストランのオーナーが開の才能を見いだして演奏を依頼し、開は家族でやらせてほしいと頼みリベンジを期するが・・・という展開のお話。開が天才的な才能を持ち次々と才能を見いだされていくという設定が前提ですが、いがみ合っていた家族が、ばらばらにそれぞれの失敗を繰り返しながら、それぞれに思いを一つにしていき、忘れていた何かを見いだしていくという過程が感動的です。でも、開のヴァイオリンの先生の千尋さんって、何者でしょう。ちょっとできすぎのような、しかし不思議な魅力が、作品を引き立てているとは思いますが。

02.ピーチズ★卒業 ジョディ・リン・アンダーソン 小学館
 ピーチズ★初恋(原題はPeaches)の続編。親友になったマーフィー、リーダ、バーディーは、1年後、マーフィーはニューヨークに行くこと(故郷のブリッジウォーターを去ること)を夢見続けてブリッジウォーターを離れたがらないレックスとぎくしゃくし、リーダは代々受け継がれてきたペカンクィーンとなり、バーディーは果樹園を継ぐ決心をしつつメキシコに行くエンリコへの思いが膨らんで板挟みと、違う将来に向けて歩み出し、次第にすれ違い友情が冷めていきます。ちょっとしたことから気持ちが離れ、意地を張り続けて壊れてゆく関係。1巻の終わりで見せた成長が、結局元に戻っているような面もあり、人間はまっすぐには成長できない、でも全然成長できないわけでもなくて、行きつ戻りつしながら少し成長してゆく、らせん状に進んでいくというイメージですね。物語としては、1巻で構築したキャラと人間関係を危機に陥らせて収束させて消費している感じで、人生そう簡単じゃないという印象と切なさを味あわせてはくれますが、展開としてはなんかぐるぐる回ってる感じがします。ラストの収束も、ちょっととってつけたような感じがしますし。エピローグでその後のことを語っているのでこれでおしまいかと思いましたが、原書では2008年に3巻(原題Love and Peaches)が出ています。1巻の邦題にピーチズ★初恋を使ってしまった小学館は3巻にどういうタイトルをつけるんでしょう。本文中に度々ゴシック体のコラム形式でほのめかしやジョークが入るんですが、メキシコシティについて「スペインの統治者、コルテスとその部下たちがワシがヘビを食べている場面に遭遇し、それがそこにメキシコの首都をつくれという神からのお告げだと思った。なぜ、そう思ったのかは、記録に残されていない」(229ページ)って、ちょっとひどい。これはアステカの神話・伝説でサボテンの上に止まったワシを見て神のお告げで首都を建築したのが水上都市テノティチトランで、アステカを征服したコルテスがテノティチトランを破壊した跡地に建設したのがメキシコシティ。神のお告げを受けたのは征服者コルテスじゃない。それくらいちょっと調べればわかるはずなんですが。

01.ピーチズ★初恋 ジョディ・リン・アンダーソン 小学館
 成績優秀だがいたずらの過ぎる問題児マーフィー、美人でセレブだが姉に強いコンプレックスを持つリーダ、世間知らずで奥手なバーディーの3人の16歳の少女が、ひょんなことからバーディーの父親が経営する果樹園で一夏を過ごすことになり、果樹園のヘルパーたちとともに労働したり恋したりけんかしたりしながら友情を深めてゆく青春小説。次々と男を変えろくでなしのヒモ男に傷つけられ町中で尻軽女と噂される母親との2人暮らしを嫌い、また自分のしたいことをし続けるマーフィーが友達の気持ちを考え、母親にも理解を示し、両親が姉にばかり愛情を注ぐと拗ね、セレブとして周りを見下していたリーダが姉と気持ちを通じ、彼氏よりも友情を優先し、引っ込み思案だったバーディーが果樹園を事実上仕切り父親の心を変え好きになった男にも決然と行動し・・・という具合に3人がそれぞれに成長してゆく様子が読みどころです。男の取り合いで友情が壊れるありがちな展開も登場しますが、友情を優先する3人の姿が心地よい。タイトルの「ピーチズ」は、かわいくて魅力的な女の子を指すそうです(訳者あとがき)が、当然3人が一夏を過ごした果樹園での桃収穫の労働と果樹園自体をも意味しています。訳文で冒頭から「パンツ」が下着のところとズボンのところが混在してるのは何とかしてほしい。プロローグは、好みの問題ですが、ちょっとごちゃごちゃして後から振り返っても散漫な感じがします。私は、最初に置くのなら最初の3文だけの方がすっきりすると思います。

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