私の読書日記 2011年7月
03.子どもの連れ去り問題 日本の司法が親子を引き裂く コリン・A・ジョーンズ 平凡社新書
母親が未成年の子を連れて別居した(あるいは別居後にでも子どもを連れ去った)際に父親が子どもを連れ戻そうとしても絶望的で、離婚調停・訴訟では子どもの親権は圧倒的に母親優先で、父親の面接交渉は母親が容認しない限りほぼ絶望的で、それを子の福祉の名の下に認めている日本の家庭裁判所の実情を、ニューヨーク州弁護士で同志社大学法科大学院教授として、さらにはかつての日本での子の監護権者指定審判の当事者としての目で論じた本。欧米で結婚生活を送っていた外国人夫と日本人妻夫婦が離婚して夫が親権者指定されているのに妻が日本に子どもを違法に連れ去っても、日本の裁判所が子どもを夫の元に返す命令を出すことは皆無で、夫が来日して連れ帰ろうとすると犯罪とされ、法的手続をすると人身保護請求は放置して妻の親権者変更申立を待って妻を親権者に指定して妻の子ども連れ去りを追認するという、「日本は拉致大国」という欧米での認識から入るので、そういう本かと思いますが、中身の大半は国内での離婚、親権者指定、面接交渉権の話。私は、決して家事事件を多く手がけているわけではありませんが、弁護士の常識レベルで、未成年者の親権者指定は母親が別居するときに置いて行きでもしなければ圧倒的に母親優先で、父親が親権者指定を求めてもほとんどの場合無駄で、面接交渉権も母親が拒否すれば認められにくいし仮に合意してもなんだかんだ言って会わせないことが多いからそこにこだわるよりは他の点で交渉した方がいいんじゃないのと思ってしまっています。業界外の人からそれはおかしいと論じられると、改めて確かにおかしな実務だわねと思います。1つの事件で論証される話ではないですが、調停手続中に妻の元にいる9歳の娘を連れ去ろうとして誘拐罪で逮捕された元裁判官の夫の事件を取り上げて、「元裁判官でも裁判所の調停より、我が子の"拉致"を選ぶような日本の家事司法とはどのようなものなのだろうか」(55ページ)というのも、うまい。やや感情的に思える記述もありますが、全体として説得力があります。でも・・・私は、この本を読んで、著者のいう「人質調停」を是正すべくがんばろうと思うよりも、依頼者に日本の家事調停や審判はこういうもんだからねと紹介するのに使っちゃうでしょうね。
02.ジャミーラの青いスカーフ ルクサナ・カーン さ・え・ら書房
アフガン戦争で多数の人々が殺された村に住んでいた少女ジャミーラが、敬虔なイスラム教徒だった母が死んで、信仰が薄く阿片や酒に溺れジャミーラが嫌っている父親に連れられてカブールに向かうが、継母に嫌われて父親に捨てられて孤児院に住み、その中で次第に自立心を強めていくという小説。唇に障害を抱えていたこともあっていつもスカーフで顔を覆っていたジャミーラが、手術を受けて自分が美しくなったと自覚して女性の前ではスカーフを外して見せたくなるという、外見に依存した要素が大きいこと、ジャミーラの他の者に対する蔑視、とりわけ身なりをかまわない不潔な少女アルワに対する生理的な嫌悪感という感じの蔑視など、成長物語として読む際にもちょっと抵抗感があるところが目に付きます。むしろ、イスラム教信者の女性が、欧米の女性や兵士などにどういう視線を向けているかという興味で読むのに適している本かなと思いました。
01.知らないともらえないお金の話 佐佐木由美子 実業之日本社
病気やけが、出産、育児休業、失業の際に申請すれば支給される各種の社会保険の手当について解説した本。日本の社会保険制度は、保険料はいやでも取られるけど、手当等の給付は自分から申請しないと支給されず、知らなければもらえないしくみになっています。そういうことをお勉強しましょうという本です。業務外の病気・けがでの休業の際の傷病手当金(健康保険からの生活費支給)、高額医療費の支給や前払い(健康保険からの医療費補助)、業務上の病気・けがの際の医療費支給や休業手当(労災保険からの医療費全額負担、生活費支給)、出産育児一時金(健康保険からの出産医療費補助)、出産手当金(健康保険からの生活費支給)、育児休業給付金(雇用保険からの生活費支給)、失業手当(雇用保険からの生活費支給)等が説明されています。こういう制度も知らない人が多いでしょうし、私も、例えば育児休業中は、申請すれば(!)社会保険料の免除を受けられ、しかもその期間は年金の計算上は保険料を支払った扱い(憧れの3号被保険者と同じ扱いじゃないの)を受けられるとか、知りませんでした。自営業者には育児休業なんてないし、年齢的にもこれから育児休業は考えがたいのですが。軽いタッチでいろいろな制度がわかって少しお得感がありました。
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