私の読書日記  2011年12月

04.大岡裁きの法律学 岸本雄次郎 日本評論社
 伝承されている大岡政談、大岡裁きの事案について、事実であるかはさておき、これが庶民の心を打つものとして伝承されていること自体から裁判官として望ましいあり方とした上で、現在の法制度の下でこのような事案について同様の結論が導けるかを論じた本。著者は、現在の法律自体がすでに江戸時代と異なり、大岡裁きをしなければ弱者が救われないような不合理なものではなく大岡裁きの心を取り込んでいると論じ、制度上裁判だけでは無理なものも行政上の制度も含めれば同様の結論を導けるという方向で紹介しています。確かに法制度としてはそれなりに合理的なものとなってきているとは思いますが、大岡裁きに見られる事実認定部分での工夫は裁判官の個性・資質・思想に委ねられるところですし、そこでどの程度どういう方向に情が示されるかは制度として保証されているわけでもありません。その部分で、安易に現在の司法は十分と読まれかねないところにやや危うさを感じます。また、制度としてみても「五貫裁き」「一文惜しみ」の八五郎が毎日一文ずつ支払う科料を徳力屋が受け取ってそれを奉行所に毎日納めよという命令を現行法で出すのは無理だと思います。「腎臓売れ」に象徴される過酷な取立で有名になった商工ローン「日栄」(現ロプロ:自らは会社更生法適用で過払い金債務を免れた上で貸金業継続中)を「N社」などとぼかしているのも違和感を持ちました(子会社の保証会社「日本信用保証」は実名で出しているのに:138ページ)。全体として、読み物としてはおもしろいと思いますが。

03.原発と権力 山岡淳一郎 ちくま新書
 日本で原発の導入・建設、運転を進めてきた政官財学メディアの権力のペンタゴン(五角形)について紹介し論じた本。その中で政治に中心的に焦点を当て、正力松太郎、中曽根康弘、田中角栄というプレイヤーたちを扱う部分が一番読み応えのある部分ですが、同時にその部分はある意味ですでに語り尽くされているというかすでに聞いたことがあるような話が多く、この本でも他の著書を引用する形でのエピソードの紹介が多くなっています。そういう意味で、この時節柄まとめてくれて手頃という点を置くと、この本のオリジナリティはどこにという気もします。この時期に書くのなら、むしろ中曽根康弘後現在までの部分も読みたい気がしますが、その点はかなりさらっとしか触れられていません。電事連がメディア対策で多額の広告費でまず朝日新聞を陥落させ、もともと推進の読売新聞にも横並びで出稿したところで、反原発キャンペーンを張っていた毎日新聞の広告局が出稿要請に来ると反対なら反対を徹底すればいいではないかと出稿要請を拒否して結局毎日新聞の反原発キャンペーンが消えていったという話(213〜216ページ)は大変興味深いですが、せっかく書くならもっと詳しく固めて書いて欲しい気がします。

02.原発訴訟 海渡雄一 岩波新書
 私が知る限りで最も多数の原発訴訟を担当してきた弁護士である著者が、これまでの原発訴訟の住民側の主張が退けられてきた歴史と一部の勝訴判決の成果を紹介するとともに、福島原発震災後の脱原発に向けた課題を論じた本。自分の名前が5〜6回登場する本を客観的に評価することは難しいと思いますが、それぞれの原発訴訟の紹介は、原発訴訟を歴史として学ぶ目的であれば本来紹介すべき裁判が欠けていたりその当時の状勢からはより評価し検討すべき面が紹介されていないきらいはありますが、現在へのつながりという視点からはバランスのよいものとなっていると思います。原子炉設置許可取消の行政訴訟、民事差し止め、仮処分、株主訴訟、労働者と住民の被曝の訴訟のいずれにも自らの経験で解説でき、また目配りできるのは著者ならではといえるでしょう。その意味で、今回の福島原発震災を契機に原発訴訟に興味を持ち、現状の理解と今後の展望のために原発訴訟を概観したいという読者には、おそらく最も適切な本だと思います。

01.スマイル・レボリューション 加藤登紀子、林良樹 白水社
 「鴨川自然王国」で循環型社会のエコ・ライフの運動を続けている著者らが、これまでの運動に加えて東日本大震災と福島原発震災後の日本社会のあり方について語り提唱する本。もともとは震災とは関係なく運動の紹介と拡大を想定して書いていたものらしく、著者2人がこの運動に至る個人史的な来歴が語られ、そこに震災の被害の衝撃と被災地での被災者たちとのつながりがかぶせられ、読み物的には断絶感というか取って付けた感があります。しかし、偶然にもというか歴史の悲劇というか、村レベルで地域自立型の村おこしに取り組みそのために有機農法や循環型社会の実践を進め方言でいう「真手(までい)」な(手間を惜しまず丁寧に心を込めて慎ましくの意)村作りをしてきた飯舘村が、福島原発震災で高度の汚染を受けたことから、その村作りに関わってきた著者らの3.11前の取り組みと3.11後の支援・関わりが必然的につながっていき、個人の顔の見える話として連続感があり、当初の意図とは違う形でしょうけど味わいのある読み物になっています。当初の本作りの目的の循環型社会の実践の継続と拡大という前向きの部分と、福島原発震災に象徴されるこれまでの官僚主導の政策の誤り・行き詰まりとそれに対する憤りの部分とが、必ずしもきれいにまとめられていなくて混沌とした印象はありますが、それ自体が現在の状況を示しているわけでもあり、まぁそういうものかなと思います。

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