私の読書日記  2012年4月

02.夜の桃 石田衣良 新潮文庫
 45歳のIT企業社長が、今も「主婦向けファッション誌の読者モデルとしても通用しそうな」美貌の妻、モニカ・ベルッチのようなグラマーな11歳年下のバツイチの愛人、25歳処女で本当に「肌があう」部下の契約社員を相手に爛れきった性生活を繰り広げる官能小説。前8割は、中年男の妄想満開の展開、終盤はそんなうまいこと行くもんかいという読者の嫉妬に答えた展開です(ネタバレというよりも、誰が読んでもいずれこうなるだろうと予測する流れです)。肌があう相手というのが、肌と肌が触れただけでまったく違う、しっとり吸いつくようなのに弱い電気が流れているみたいにぴりぴりした刺激がたまらない、「ただ気持ちがいいなんてものじゃない。ほんとうに肌があう女っていうのは凶器といっしょだ。セックスは気が遠くなるくらいいいが、やるたびに怖くなる。このままどこまでよくなるんだろう」(149ページ)というような調子で描かれています。そういうことってあるんだろうか。あるのかもしれない。そういうものを求めてさすらう気にもなれないのですが、ちょっと憧れも感じます。私は、どちらかというと、やっかみは感じず、むしろ妄想炸裂ならそれはそれで最後まで突っ走ってみてもよかったんじゃないかなと思います。その一方で、「男は一生罪悪感をもって歩く生きものなのだろうか。まえの晩よその女と会った翌朝は、慣れているはずの雅人でも薄い氷を踏むような気分だった」(30ページ)、「別な女と会ってきたばかりの夫は、草むらに潜むバッタのように敏感なものだ。雅人は妻の表情になにか危険なものを感じた」(211ページ)、「なぜか別な女性と会った日は、その人のにおいが身体に染みついているように感じられるものだ。血まみれの手をして犯行現場の近くを歩いている殺人犯にでもなった気がする」(213ページ)、「雅人は恐妻家ではないつもりだが、なにげない妻のひと言にはいつも内心どぎまぎしてしまう。夫が妻を恐れるというのは、リンゴが木から落ちるのと同じだった」(218ページ)という心理描写は・・・そうなんだろうなと思いつつ、笑ってしまうというか、考えさせられるというか。

01.しょうがない人 平安寿子 中央公論新社
 自然素材サプリメント販売店でパート勤めしている河埜日向子43歳が、高校の同級生の勤務先社長辺見渚左、パート仲間の50代の蒲田と木内と、家族・親族との関係の悩みを打ち明けたり励ましたりしながら過ごす、世間話的短編連作。従姉で元客室乗務員の有閑マダムのジコチュウぶり、優雅でできる姑の当てこすり、大学時代のサークル仲間の見果てぬ夢の就活と不倫、携帯とお小遣いアップを目指す思春期の娘との冷戦、夫とラーメン屋を営む妹とその親族への違和感、社長が学生時代に通ったバーのバーテンだったコンサルタントのタヌキ親父ぶり、長時間電話で相談してくる悩ましい顧客、自宅をゲストハウスにして貸したいと言い出した両親とそれを支持する妹一家との確執、自分に事前に相談しないで話をつけた夫に対する反発といったネタを元に、日向子の感情や、それを職場での愚痴にしての顛末を綴るというスタイルです。9話構成のうち最後の3話は続く形ですが、それ以外はネタを拾い出しての1話完結になっています。中年主婦の理解されたい願望、隣の芝生は青い的視点が、自営業者的な視点の社長や介護経験者の同僚からの揶揄とセットで綿々と語られていて、掲載誌の「婦人公論」読者層には共感なりカタルシスを、そうでない読者には中年の主婦ってこういうこと考えてるのねって感想を呼ぶ読み物かなと思います。

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