私の読書日記  2013年1月

03.撮影の基礎から応用まで CMムービー撮影の基礎知識 野本康夫 玄光社
 テレビCMの撮影技術についての解説書。
 「コマーシャル・フォト」誌への連載を再構成したものだそうで、基礎編と応用編に別れ、MOOKサイズで1項目4ページで解説しています。基礎編は地デジ化前の撮影を、フィルムやカメラ(著者は「キャメラ」と呼ぶことにこだわっているようですが)などの機材面、照明、現像に分けて解説し、応用編は「応用」というよりは地デジ化や撮影動画のデータ化・ファイル化などコンピュータ化・デジタル化への対応について解説しています。
 写真撮影と異なり動画は連続しているのでピントは「あわせる」のではなく対象が動き続けてもずっと「あっている」ことが必要で、オートフォーカスではなく、撮影助手が目測で撮影対象との距離を把握してマニュアルでフォーカスを送り(調整し)続けるのだとか(34〜35ページ)。まさしく職人芸の世界。動画では映画は毎秒24コマ、日本のテレビCMは毎秒30コマで撮影してその倍のコマ数で再生しているが、静止画像の場合のように1コマ1コマきっちり撮影して再生するとかくかくした動きになってしまい、画像が動体ぶれしたぶれゴマがあることでなめらかな動きを感じるのだとか(44ページ)。それで動画のキャプチャー画像って、動画で見るとはっきり見えるように思えるのにぶれてることが多いんですね。
 地デジ化によって、画像の精細度が上がり、データの情報量も増えて、アナログの時は見えなかった不具合が見えるようになったとか、テープなら実時間でコピーできるものがデータ転送に何倍もの時間がかかるようになる上にテープのような量的な制限がないので大量の映像を撮影しがちで処理が大変だとか、アナログ放送の時は高音域をカットしていてその狭い音域にあれこれ詰め込んでいたことがCMがうるさく聞こえた原因だったが地デジでは高音域がカットされずCD音質が可能となり今後は技術的にはCMの「うるささ」は解消してより深みのある音声にできるはずとか、思わぬ変化があるものだと勉強になりました。

02.ダムの科学 一般社団法人ダム工学会近畿・中部ワーキンググループ サイエンス・アイ新書
 ダムの効用、建設・運用、技術などについて、「学・官・民の連携によりダム工学の発展、普及を図る近畿・中部地区の専門家チーム」が解説した本。
 基本的に見開き2ページ構成で写真・イラストを多用する一般向け解説用のスタイルをとっており、現に多くの部分はわかりやすく書かれているのですが、知りたい部分がさらりと流されたり触れられていないもどかしさを感じるところも多く、他方第4章のダムの先端技術のところはあまり素人にわからせようという意欲を感じない文章も目につきイラストの工夫が今ひとつ足りない感もあり素人には理解しにくい部分が多々あるように思えました。
 全体として近年のダムに対する批判的な世論と民主党政権の動きに対抗する意識で書かれていることがありありと感じられる本で、世界のダムでの批判や問題点については触れられても(80〜81、88〜89ページ)、日本のダムについての個別の問題への言及はなく、ダムの環境問題についても技術的に解決できるということに力点が置かれているように思えます(第6章:178〜201ページ)。一般論として技術的に可能だということと現実にどれだけのダムでその対策が実施されているかにはおそらくかなりの隔たりがあると思うのですが、そこはこの本を読んでも見えてきません。
 華厳の滝の水量は上流のダムの放流操作で調節されており観光に配慮して操作されている(50ページ)とか。日本3名瀑もこういわれると魅力がかなり失われる感じがします。

01.風力発電が世界を救う 牛山泉 日経プレミアシリーズ
 風力発電が世界では主要電源の一翼となってきている現状を紹介し、日本での拡大のネックと方策を論じる本。
 日本では原発推進派と官僚から原発ゼロは非現実的という結論を導く思惑で過小評価されている風力発電だが、世界では2011年末現在の設備容量は2億5000万kWを超え、世界の原発の設備容量の半分を超えていること、2009年と2010年には世界で約4000万kW(原発40基分)の風力発電が新設され、世界の風力発電は2010年まで10年間年率20%以上の伸びを続けていること(20ページ)がまず紹介され、アメリカでのコスト比較では風況のよい場所を選べば従来型の石炭火力や水力よりも低コストになり現在でも既にコスト面で優等生であること(26ページ)など、ふだん目にすることのない情報が書かれています。
 日本は特に東北地方と北海道に風力発電のポテンシャルが高く、東北地方と北海道の陸地、さらには洋上風力発電まで考えれば能力的には原発ゼロも十分視野に入るが、送電線網が能力不足で特にポテンシャルの高い北海道と本州を結ぶ送電線の能力が足りず、電力会社管轄地域間を結ぶ送電線網も能力不足であること、風力発電の設置に関して省庁縦割りの規制の障害が多々あること(150ページの一覧表とか見るとため息が出ます)などがネックになっていることが指摘されています。
 もちろん、風力発電の不安定性や、風力発電でも問題となる騒音問題等も論じられていますが、こうしてみると、世界では風力発電が伸びているのに日本では伸びが非常に遅いのは、ソフトエネルギーの性質上の問題ではなく電力会社と官僚が風力発電にシフトしたくない(端的に原発を維持したい)から風力発電等のソフトエネルギーには予算を回さず(原発にはジャブジャブと資金を注ぎ込んでいるのに)ソフトエネルギー拡大の障害を除去せずにいることが最大の原因だと感じられます。
 著者が「はじめに」で、「わが国には、自分たちの力では未来を変えることができないという無力感がある。講演の折りにも、『将来はどうなるんですか?』という質問が多い。これに対し、私は『あなたはどうしたいんですか』と逆に問い返している。未来は予測するものではなく創りだすものなのだ。」(6ページ)と述べていることが印象的です。そして、こういう本を日本経済新聞出版社が出していることも。著者が風力発電の研究開発に携わっていることから、ある程度の我田引水というかバイアスはあるでしょうけれども、風力発電が現実的で経済性のあるまさに事業として成り立つものだということを改めて実感させてくれる本だと思います。

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