私の読書日記 2018年4月
01.02.罪責の神々 上下 マイクル・コナリー 講談社文庫
リンカーン弁護士シリーズの第5作。
第4作(邦題「証言拒否」)で地区検事長選挙に敗れて1年後の再び事務所を持たずリンカーンの後部座席で執務するという初期のスタイルに戻った(もっとも、第4作で雇った勤務弁護士、元妻のケースマネージャー、その夫の調査員らとのスタッフミーティングのため依頼者所有の空きビルを使うという妥協が図られていますが)敏腕弁護士マイクル・ハラーが、第1作で登場した依頼者の娼婦グロリア・デイトンが殺害された事件で、無実を主張する被疑者の弁護を引き受け、無罪獲得に向けて奔走するというお話です。
第3作と第4作で体制寄り権力寄りの匂いがするようになっていたのが、第1作・第2作の違法すれすれの手段を使いながら勝つちょい悪弁護士の線に復帰した感じです。
ハラーのような敏腕弁護士が、事務所の経営に困り、事件を求めて留置場で名刺をばらまくという設定は、第4作からの流れですが、同業者としては身につまされます。
このシリーズでは、第1作からこの作品に至るまで、すべての作品で法廷シーンが中心となり、裁判官・検察官との駆け引き、証人尋問がかなりの紙幅を費やして描かれています。法廷シーンを中心としたリーガル・サスペンスをこれだけ書き続けられるのは、希有の才能と思われます。弁護士の目から見ても、アメリカの法廷での実務にフィットしているのかは私にはわかりませんが、証人尋問の際に手持ち材料を見ながらこの証人にどこまで踏み込むかどこで見切るかの描写、そこでの弁護士の思惑と困惑と判断が、実に読み応えがあります。
上巻116ページで、被害者の娼婦の本名(グロリア・デイトン)を知らないはず(上巻67ページで本名かどうかは知らないが「ジゼル・デリンジャー」という名前しか知らないと言っていますし、上巻121ページでは書類に書かれた名前を見て「グロリア・デイトンってだれだ?」と言ってハラーに「それがジゼルだ。本名がグロリア・デイトンなんだ。」と言われています)の被疑者が、3度にわたり被害者を「グロリア」と呼んでいます。被疑者が隠し事をしていて、何かの伏線になっているのか、しかし敏腕弁護士のマイクル・ハラーがそれに気がついて追及しないのは何故だ?と気になりながら読みましたが、最後までそこには焦点は当たりません。単純ミスのようです。こういうところは興ざめしてしまいます。
※ 読書日記は、2017年半ば頃までは、原則として読んだ本全部について何か書く/書くよう努力するという方針でやってきましたが、現在は、これは書いておこうと思ったときだけ書くことにしています。
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