私の読書日記 2020年2月
03.オーパーツ 死を招く至宝 蒼井碧 宝島社
国内序列第1位の東京のS大学法学部1年生で記者志望の鳳水月と、鳳とまったく同じ顔をした神秘の工芸品オーパーツを求めて世界を股にかける鑑定士古城深夜が、次々と起こる殺人・怪死事件の謎を解く短編連作ミステリー。第16回(2017年)『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
希少な工芸品をめぐる謎というややクセのある題材で、クセのあるキャラクターをややクセのある文体で描いて読ませる第1章と第2章は、トリック一発にかける比重が大きく登場人物が少ないことから長い展開が難しいという事情はあるでしょうけど、膨らませて長編にしてもよさそうに思えました。第3章と第4章が、数あわせというか長さあわせのためにひねり出した感があり、1冊の本としては後半に失速する印象があります。もっとも、第1章か第2章のネタで長編1作にすると、それはそれで間延び感があったかも知れませんが…そのあたり、商品としての小説の構成の難しさを感じます。そして、エピローグ。読んでいて、最後にここで一発古城深夜の裏にさらにそれを操る黒幕、みたいなメタ・トリックを期待しましたが、単なる続編宣言/宣伝に終わり、失望しました。これが見事な締めで決まれば、第3章第4章の失速感を補いよい読後感を回復できたのでしょうけれど、後半間延びした挙げ句に最後にこれでは、このエピローグ、なからましかばと…
02.労働・職場調査ガイドブック 梅崎修、池田心豪、藤本真 中央経済社
学者と労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究員たちが、労働・職場調査の全体がわかる見取り図を示して提示してくれる教科書がないから作ってしまえばよい(2ページ)という考えで、労働・職場調査の方法論等を書いた本。
さまざまな調査方法が説明され、その領域での調査・研究例、執筆者自身の研究事例が、ちょこちょこと取り上げられているので、見聞を拡げる・好奇心を満たすという点ではいいかと思います。それぞれのパートが短いので、関心を持つと、もう少し踏み込んだ説明が欲しいのになぁと思う場面が多いですが。
弁護士を含む「専門家の専門性の本質は、行為の過程で複雑で多様な状況との対話を通じて自らの行為を振り返る『行為の中の省察( reflection
in action )』である」(124ページ)なんて言われると、なるほどとも、そういう言葉で表せたとしてもだから何?とも思います。学者さんが書いた本を読んでよく感じる楽しさとむなしさではありますが。
政府の統計について、回答率の低下により信頼性が揺らいでいる(177~178ページ)ことの指摘(回答の記載がないと「不詳」などになりその割合が近年増えているなど)、データの収集範囲を確認する必要があるとか標本誤差があるのでその程度を確認するとの指摘(183~184ページ)はありますが、それ以上の指摘はないままに「信頼の置ける情報源」としています(182ページ)。2020年初頭という時期に出版されたにもかかわらず、政府統計、それもまさにこの本が扱っている領域である厚労省の毎月勤労統計調査などが、時の政権の指示またはそれに対する忖度で調査方法を恣意的に変更して政権に都合のいい結果を出していたということが、2018年から2019年にかけて発覚したことにまったくコメントしないで、信頼の置ける情報源だというのはいかがなものでしょうか。政府系の組織である労働政策研究・研修機構が関わった本で政府や厚労省の問題には触れたくないということかもしれません(この部分の執筆担当は学者さんですけど)。しかし、政府・厚労省批判をするしないではなく、自らの調査研究で取り扱うデータの信用性の評価検討という、学者・研究者の基本的・初歩的な問題について、学生・院生・研究者向けの「教科書」として書く書物で言及して注意を促すことを避ける/怠るというのでは、著者・執筆者の研究者・教育者としてのスタンスを疑ってしまいます。スウェーデンで1970年代に労働者がごまかしをして高い賃金を得ていたことを暴いてやったなんて企業に味方して労働者を貶めるようなことは自慢げに書いている(34~35ページ)のに。
01.毒よりもなお 森晶麿 角川書店
「首絞めヒロの芝居小屋」と題するサイトを運営し、そのサイトで「青天井の遊歩者」と題する小説を公開している謎の人物による連続殺人事件をめぐるミステリー小説。
最後のひねりは、確かに序盤から感じる釈然としない点に答を与えてはいるのですが、どうもひねりのためのひねりという感じがします。
首を絞めるという行為への執着が殺人への衝動の原点/起点であったヒロが、何故に顔が判別できないほどの顔面殴打を実行するに至ったのか(絞殺の技術的困難性が296ページで指摘はされていますが、心理的な変化、動機の点での説明はなされていません)、白いソックスへのこだわり、その意味、などのけっこう重要な謎、布石が説明されないままに放置された感があります。そして、プロローグの「人を四人も殺した」(6ページ)というのが理解できません。どう数えても3人しか死んでいないはずなのですが(エピローグの記載は曖昧で、それだけなら別異の解釈も考えられますけど、時系列上はプロローグの方がエピローグより後になるのですから…)。そういったところに、作者の設定を受け入れてもなお、モヤモヤ感が残りました。
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